ドイツ、官民異夢の中国戦略 距離感のお手本は「日本」
フランクフルト支局長 林英樹
ドイツ政府が初めてまとめた中国戦略の表紙には、碁盤の写真が載っているドイツ政府は7月、中国に対する外交戦略を初めて取りまとめた。64ページに及ぶ報告書の表紙を飾ったのは、中国発祥の囲碁の写真だった。
ドイツにとって中国は2016年から7年連続で最大の貿易相手国で、今や代えのきかない存在だ。自動車や機械、化学といった重要産業のサプライチェーン(供給網)上流を押さえられ、レアメタルなど鉱物資源や原材料を輸入に頼る。22年の中国との貿易赤字額は1990年以降で最大の840億ユーロ(約13兆3000億円)に達した。
「デリスキング(リスク低減)で中国への依存度を下げるべきだ」という政府の警鐘を横目に、独企業は中国国内の投資を加速させる。独連邦銀行によると、21年の新規投資額は100億ユーロ、22年が115億ユーロと2年連続で最多を更新。23年1~3月は43億ユーロで22年の四半期平均を大きく上回り、勢いは止まらない。
なぜ官民でブレーキとアクセルを踏み合う状況に陥っているのか。独ツェッペリン大学のアンヤ・ブランケ教授(現代中国学)は「総論では多くの独企業が政府のデリスキング戦略を支持している」と話す。ただ、供給網分散のための公的支援など具体策が示されておらず、「曖昧で動きようがない」と独企業に一定の理解を示す。
「Vorbild(フォアビルト)」というドイツ語がある。「手本」という意味で、独メディアが日本に言及する際に広く使われるようになった。中国だけに依存せず、かといって敵対もしない。適度な距離を保ちつつ「自由」を守る日本の戦略をドイツも見習うべきとの論調だ。
デュブール氏の退社が話題を集めたのは、日本人の母親を持つ同氏の出自と無縁ではない。称賛の風潮は日本人として悪い気がしないが、多分に誇張されている面もあり、「打つ手」を見いだせないドイツの苦悩の表れともいえる。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR271T90X20C23A8000000/
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