中国政府の日本への渡航自粛要請から14日で1カ月となる。インバウンド(訪日客)を受け入れてきたホテルや旅館で予約キャンセルが相次いだが、事前決済を導入する宿泊施設も多く、「代金踏み倒しリスク」の回避に成功しているケースが目立つ。 損失を被っているのはむしろ、中国側の旅行代理店などとの指摘もある。
・欧米からの訪日客で補填可能
「契約時点で旅行代金をもらうことが多い」。パッケージツアーを販売する大手旅行会社の担当者はこう語る。「渡航自粛」が理由のキャンセルは客都合として扱われるため、旅行会社は一部の返金で済むという。団体客のキャンセルは損失が大きく、「前払いが主流になっている」(複数の旅行代理店関係者)。
個人客の場合も、クレジットカードによる事前決済を求めるオンライン宿泊予約サイトが多いため、被害は限定的との声が聞かれる。
さまざまな国から観光客が訪れる都市部では、現地払いの中国人によるキャンセルが出ても、欧米や東南アジアなどの訪日客で補填(ほてん)できているという。
全国でホテルを展開する企業の担当者は「中国人の予約がなくなっても、特に問題ない」。 人気観光地として知られる京都・嵐山周辺の旅館運営企業も「宿泊前日にキャンセルされても、すぐに他の予約が入る」と説明する。
・中国人経営の民泊に打撃
近畿地方の旅館経営者は、中国の渡航自粛で打撃を受けているのは中国人経営の民泊だと分析する。宿泊料は「中国の電子マネーで支払われており、日本の経済成長にはつながりにくい」。
旅行代理店関係者によると、中国人団体客は自国の旅行代理店を使い来日している場合が多く、渡航自粛で真っ先に損失を被るのは 中国側という。
ただ、影響のない施設ばかりではない。
・2000人キャンセルの日本ホテルも
京都市観光協会によると、宿泊施設への聞き取りでは、一部で宿泊予約を取り消した中国人客から「キャンセル料を払わない」と拒まれ、 「取引先とのつながりもあり、徴収はあきらめた」と泣き寝入りしたケースもあるという。
特に地方では、キャンセル後の穴埋めに苦慮する施設が少なくない。
愛知県蒲郡(がまごおり)市の「蒲郡ホテル」取締役、竹内佳子さんは「新規の予約は一切ない」と話す。宿泊客の7、8割を中国人団体客が占めていたが、渡航自粛要請以降、団体予約2千人分がすべてキャンセルに。キャンセル料の請求にも苦戦しているという。
新型コロナ禍でも同様の事態があり、不動産賃貸事業などでリスクを分散。堅調な経営を維持しているが、「地方でホテルだけを経営しているところは、直前でキャンセルされると苦しいと思う」(竹内さん)。
消費者問題に詳しいベリーベスト法律事務所の斉田貴士弁護士は「外国人にキャンセル料を踏み倒された場合、裁判を起こして徴収するには、通常以上に時間や費用がかかる。客離れを恐れて導入をためらう施設もあるが、前払い制度やオンライン決済を活用して自衛することが大切だ」と話した。(永礼もも香、格清政典)
https://www.sankei.com/article/20251212-YHPTZJVSL5NRXIHGFGARSF4JSQ/
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