中学受験の勉強にも役立つとして人気の歴史まんが。累計発行部数1000万部を突破し、多くの子どもたちに親しまれてきた角川まんが学習シリーズ「日本の歴史」(16巻、KADOKAWA)が刊行から10周年を迎え、最新の研究に基づいて内容がアップデートされた。
更新箇所は、計15巻で1000カ所近く。当初想定していた以上に大がかりな改訂に至ったのは、研究者のある「違和感」からだった。
◇「違和感」の正体は
2015年に刊行した「日本の歴史」は、15巻まで東京大学史料編纂所の山本博文教授(2020年逝去)が監修した。シリーズは、旧石器~古墳時代の日本の始まりから、令和時代までの日本の歴史が全16巻で描かれている。
担当編集者の石井康予さんが23年、別巻を監修していた東大史料編纂所の岡美穂子教授に全巻を読んでもらったところ、「最近の研究と照らし合わせてみると、古い記述がかなりありますね」と指摘を受けた。
刊行以降、新たな学習指導要領の施行に合わせて語句など細かな更新はしてきたが、10周年を迎えるのに合わせ、令和時代などを描いた16巻をのぞく15巻の内容を全面的に見直すことになった。
岡教授の協力を得て、東大史料編纂所の研究者が中心となり、監修体制を整えた。
1~3巻の古代史パートの監修を担当した、東大大学院人文社会系研究科の稲田奈津子准教授は、初めて作品を読んだ時の感想について「大きな違和感がありました」と語る。
その違和感の正体は、「登場人物に女性が圧倒的に少ないこと」だった。特に、縄文や弥生のように史料が限られる時代でさえ、男性中心の描写になっていることが気になったという。
本来であれば自由に描けるはずの場面でも、狩りや戦いは男性が担い、女性は家事や子育て、栗などの採集をするというように性別によって役割が描き分けられており、「現代人の価値観が強く反映されてしまっている点がすごく引っかかりました」(稲田准教授)。
◇本当は、女性も狩りをしていた?
近年の研究では、こうした前提が見直されつつある。例えば、狩猟に関しては女性も参加していた可能性が指摘されており、ある調査では、アメリカ大陸の遺跡から狩猟道具と一緒に発掘された狩猟者とされる人骨のおよそ4割が女性だったとする分析結果もある。日本でも、弥生時代の遺跡から矢じりが頭に刺さったままの熟年女性の遺骨が発見されており、戦闘に加わっていたとみられる。
「力で獲物を仕留めるだけが狩りではありません。小動物を狩ることもあったでしょうし、みんなで獲物を探し追い詰めたり、出てくるのを待ち構えたりする時間もあります。腕っぷしの強い男性だけの仕事と考えるのは不自然ですよね」
こうした稲田准教授の指摘に、旧版の企画の最初から担当していた石井さんは「言われるまで気がつかず、ハッとしました」と振り返る。
刊行当時、登場人物の男女比や、性別による役割分担について編集過程で異論は出なかった。石井さんは「男性は外で力仕事をして、女性は家でご飯を作って待っているという一昔前の社会観、ジェンダー観が出てしまっていたと今になって思います」と省みる。
◇ジェンダー表現推こう、原稿400枚超に
稲田准教授は1ページずつ描写や文言を確認し、ジェンダー表現を中心に更新が必要な箇所を付箋に書き込んでいった。狩猟や戦闘のシーンにも女性を加え、栗拾いなどのシーンには男性も登場させた。男性のみで描かれていた政治の場については、魏志倭人伝の「会同座起には父子男女の別なし(会合の場では、長幼や男女の区別はない)」という記述をもとに半数を女性にした。
女性の座り方の表現にもこだわった。縄文時代、祭祀(さいし)のために、屋外で男女が集まり座っている場面で、男性はあぐらをかいているのに対し、女性は正座で描かれていた。
稲田准教授は、「女性があぐらをかくのはみっともないという価値観が働いてしまったのだと思います。長い歴史の中で見ると、女性は膝をぎゅっと閉じて正座をすべきだという価値観が広まったのはごく最近です。土の地面の上で正座をするのは痛いですし、縄文時代に女性だけがそうしていたとは考えづらいですよね」と指摘する。改訂版では女性も男性と同様にあぐら姿に改めた。
石井さんは稲田准教授と推敲(すいこう)を重ね、漫画家に更新箇所を丁寧に説明し、約1年をかけてコマ割りの変更や登場人物の描き直しを実施。15巻で、原稿400枚を超える大がかりな改訂作業となった。
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https://hanasone.mainichi.jp/articles/20260709/wom/00m/402/009000c
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