イタリア人の常識を覆したナポリタン
イタリア人にとって、パスタは聖域だ。アルデンテの茹で加減、素材の味を生かしたソース、そして何よりも「パスタにケチャップをかけるなんて言語道断」という、体に染みついた鉄の掟がある。
日本に住み始めたばかりの頃、初めて「ナポリタン」という文字をメニューに見たとき、僕は自分の目を疑った。ナポリってあのナポリ? 南イタリアのこと? あの騒がしい人たちが港町で何を作ってくれるというんだろう。意を決してナポリタンを注文し、テーブルにやってきたのは真っ赤なパスタだった。
ただし、お皿の上で踊っているのはトマトソースではなく、真っ赤なケチャップ。さらに具材にはソーセージやピーマン、玉ねぎ。極めつけは、イタリアでは絶対にタブーとされる、クタクタに柔らかく茹でられた太麺ときた。
イタリア人の常識を覆したナポリタン
怒られるかもしれないけれど、正直に言おう。「これはナポリに対する侮辱ではないか?」と、最初はそう思った。しかし、喫茶店の薄暗い灯りの中で、鉄板にのってジュージューと音を立てるナポリタンを何気なく口に運んだ瞬間、僕の脳内に電流が走った。
美味い。圧倒的に美味いのだ。
それは僕が知っているイタリア料理のパスタとは完全に別物だった。酸味と甘みが一体となった濃厚なケチャップのコク、麺にこれでもかと絡みつくソースの背徳的な味わい。無我夢中で食べていた。そして、いつしか気が付けば、定食のハンバーグの横にそっと添えられた冷たいナポリタンにさえ、僕は愛おしさを感じるようになっていた。
ナポリタンはイタリア料理ではない。洗練され、独自の進化を遂げた「立派な日本料理」なのだ。
イタリア人の常識を覆したナポリタン
考えられない作り方への絶望から、狂おしいほどの恋に落ちるまで、そう時間はかからなかった。今や僕は、ナポリタンの熱狂的なファンである。
https://news.yahoo.co.jp/articles/90a1442e3303f9087082b932499f2eef67d7bca4


