挑戦者の矢吹正道が王者アンヘル・アヤラを12回1分54秒、TKOで破り、保持するIBF世界ライトフライ級王座との世界2階級同時制覇を日本人で初めて達成した。今後はフライ級で活動するためライトフライ級王座は近日中に返上する。
右目下に痛々しい傷をつくり2本のベルトを両肩にぶら下げた矢吹は「一戦一戦がゴール。勝ったことがゴールだと思う」と安堵(あんど)の笑みを浮かべた。
最終12回。右ストレートで3度目のダウンを奪い、再開後に連打でレフェリーストップを呼び込んだ。セコンドについた弟でIBF世界スーパーフェザー級3位・力石政法(30=大橋)から出た「行け!」の指示に従い最高の幕切れを迎えた。
初回から左フックで王者に尻もちをつかせ、2回は打ち下ろしの右で2度目のダウンを奪った。ただ、好事魔多し。3回に偶然のバッティングで自身は右目下、王者は右目上をカット。直接、血がたれなくても「(タオルなどで拭かれ)ワセリンと血、水が目に入って。ずっとメガネが曇ったような状態」と視界不良に苦しんだ。それでも巻き返そうと強引に出てくる王者に左ジャブや右カウンターを当てジャッジ3人とも5回以外全て矢吹にポイントを与える完璧な内容だった。
昨年10月に世界王座へ返り咲いた直後から減量苦を理由にフライ級進出を語っていた。「何とか体重を落とせるけど綱渡り」という苦しみから解放され、本来のパフォーマンスを発揮した。次戦は指名試合が有力。その後にWBO王者アンソニー・オラスクアガ(米国、帝拳)ら他団体王者との統一戦を望む。
弟の力石は5月に世界初挑戦する。「兄弟同時世界王者」は2人で掲げる夢だ。兄の矢吹は「良いバトンを送れたかな」と胸をなで下ろした。(原口 公博)
◇矢吹 正道(やぶき・まさみち=本名・佐藤正道)1992年(平4)7月9日生まれ、三重県鈴鹿市出身の32歳。アマ戦績は16勝9KO5敗。16年3月にプロデビューし同年西日本フライ級新人王。20年7月に日本ライトフライ級王座獲得。21年9月に世界初挑戦で寺地拳四朗に10回TKO勝ちしてWBC世界同級王座を獲得するも、翌年3月の再戦で敗れて初防衛失敗。24年10月にIBF世界同級王座を獲得。1メートル66の右ボクサーファイター。
○…矢吹の弟・力石は「完璧に試合をコントロールしていた。刺激になった」と兄の王座奪取を喜んだ。セコンドから的確な指示を送り、最終12回は観客をあおってTKO勝利を後押しした。5月28日に世界初挑戦を控えており、リング上では「兄より凄い勝ち方をしないといけない。兄は12回でKOしたが、僕は1分で倒します」と宣言。「半分ギャグで半分本気」と舌を出しながら「僕が勝てば全てが丸く収まる」と兄弟同時世界王者への思いを強くした。
▼アヤラ 矢吹の方が経験豊富で冷静だった。王者同士の試合だったので、キャリアに土がついたのは仕方ない。チャンスがあればリベンジしたい。(プロ19戦目の初黒星にも潔く)
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