全国の多くの自治体が、スマートフォンから行政手続きが行えるようオンライン化を進めている。ところが、一部の自治体が本人確認のために導入したアプリに問題が見つかり、オンライン利用を取りやめる事態が起きている。行政のデジタル化が加速する中で、自治体側の確認の甘さや知識不足も指摘されている。(畑武尊)
アプリは、東京都千代田区のIT会社が開発した「x(クロス)ID」。利用者がアプリでマイナンバーカードの個人情報をスマホに読み取らせることで、本人確認や電子契約が簡単に行える。
仕組みはこうだ。スマホにアプリを入れてマイナンバーカードを接触させ、カードに登録された氏名、生年月日、性別、住所をアプリに読み込ませる。カード交付時に自身が設定した暗証番号を入力し、本人と確認。その後、このアプリに対応した自治体のオンライン手続きをスマホで利用すると、アプリと自治体側がデータをやりとりし、ほぼ自動で本人確認が実施される。
開発会社は、カードを使った本人確認事業の実施を国から認められている。昨年4月にアプリの提供を開始し、同社のサイトによると、今年7月時点で25自治体が利用している。昨年8月に導入した石川県加賀市は、人間ドックの費用助成や3人目の子どもの出産祝い金の申請、運動施設の予約など92種類をアプリ対応とした。市スマートシティ課の担当者は「数千回利用されており、足を運んだり郵送したりする手間が省けて好評だった」と話す。
問題提起
しかし、今年9月、マイナンバーに詳しい専門家がSNS上でアプリの問題点を指摘し、流れが変わった。
アプリはカードの読み込み時に、カードに記載されたマイナンバー(個人番号)を入力させる仕様になっている。マイナンバー法では、マイナンバーの収集や保管は、税や社会保障など法定の目的でしか行えないと規定しており、この入力が違法な収集にあたるのではないかという問題提起だった。
指摘などを受け、導入自治体で利用停止の動きが広がった。加賀市は9月末、アプリを使った全申請を停止。愛媛県は、ボランティアの人材などのマッチングサービスを提供していたが、このアプリを使って登録した4人のデータを削除し、再登録してもらった。
東京都渋谷区は、施設の予約システムの納入業者を公募した際、条件にしていたアプリ導入を撤回。川崎市や岐阜県も使用できないように設定変更した。
疑問出ず
自治体側は問題に気づいていなかった。加賀市は職員がテストを実施したにもかかわらず、マイナンバー入力に疑問の声は出なかった。担当者は「開発会社の話を聞き、総合的に問題ないと判断した」と説明する。愛媛県の担当者も「仕様をよく確認すべきだった」と話した。
10/12(火) 15:33配信 読売新聞オンライン
https://news.yahoo.co.jp/articles/610495b483a93926b89b467e1b31b4c6d44f91d0