(抜粋)
栄養ドリンクのCMから「疲労回復」の言葉が消えたことにお気付きだろうか?これは疲労の原因物質が発見され、研究が飛躍的に進展したからだという。
ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)とヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)の二つはほぼ100%、成人の体内に潜んでいる。近藤一博教授率いる東京慈恵会医科大学ウイルス学講座の研究チームは、これらのウイルスが少し残業をするといった程度の疲労でも唾液の中に出てくることを突き止め、唾液の中のHHV-6やHHV-7の量を調べることで疲労の有無や度合いを客観的に測る方法を世界で初めて発見した。
――文献やネット情報では、「疲労を起こすのは活性酸素による酸化ストレス(活性酸素が増え過ぎて、活性酸素の産生と抗酸化防御機能のバランスが崩れること)で、細胞が傷つけられるからである」が定説になっています。
それは間違いです。以前は、活性酸素によって体がさびつく(細胞が酸化する)と、それに対する免疫反応で炎症性サイトカインが出るというようなこじつけが行われていましたが、生理的疲労の場合、体のどこにも異物は存在せず、免疫反応も起きません。炎症性サイトカインは、疲労因子(リン酸化elF2α)によって発生します。
――体の中で免疫反応は起きていない。つまり活性酸素は疲労物質ではない、ということですか?
はい。生理的疲労の仕組みは、体を動かしたときに細胞に負荷がかかる⇒乳酸が肝臓で代謝される⇒そのときに「タンパク質合成因子(elF2α)」がリン酸化されて疲労の疲労因子(リン酸化elF2α)になる⇒炎症性サイトカインが作られ、「疲労感」という生体アラームが発する。一方でタンパク質の生成が阻害されることで細胞の機能が低下し、臓器機能の低下や障害が起こる「疲労」状態となる、ということです。
活性酸素は、リン酸化elF2αを作る原因の一つですので、疲労の原因の一部ではありますが、体をさびつかせて免疫反応を起こさせるという説明は正しくありません。
ただし、「病的疲労」においては、免疫機能が関係すると考えられる疲労もあります。そこは分けて考えなければなりません。
――栄養ドリンクやサプリメントの広告は今も、「抗酸化物質で過剰な活性酸素を除去する」ことが大切だとアピールしています。
栄養ドリンクやサプリメントに入っていて、これまで疲労回復に効くとされていた物質のほとんどは「抗酸化物質」です。
抗酸化物質によって抑えることができるのは疲労感だけで、体中の「疲労」はそのまま残る。それなのに、抗酸化物質で疲労感を抑えたまま働いたり、運動し続けたりしたらどうなると思いますか。無自覚なまま全身に疲労がたまり、ある日ぱったり倒れてしまう。最悪過労死に至ります。
――今のところはまだ、疲労回復物質は見つかっていませんか?
見つけましたよ。「ガンマーオリザノール」という米ぬかの成分と、納豆とチーズに含まれている「ポリアミン」です。あとは「ビタミンB1」も、不足すると本当に疲労することが分かりました。ただし、たくさん取れば良いというわけではない。
https://diamond.jp/articles/-/284501