「息子の形見」欠陥、異例の慰謝料 バリアフリー住宅、完成見ず他界 大手メーカー相手に遺族勝訴
要望に誠実に対応せず、著しく不適切だ―。
交通事故の重い後遺症の末に死去した息子の「形見」だったバリアフリー住宅に欠陥があったとして、両親が大手住宅メーカーに損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は今年3月、亡き息子への慰謝料を認める異例の判決を言い渡した。両親は欠陥の背景に「障害者への無理解がある」と訴えている。
内藤壮史さんは17歳だった2007年、神奈川県内での衝突事故で、頭部外傷後遺症などを負った。寝たきりの重い意識障害が続き、転院を繰り返す日々を送った。
母親(65)は入院中に亡くなる人を目の当たりにし、「生きてる間は一緒に」と考えた。父親(68)と相談して自宅の新築を決め、15年3月に壮史さん名義で大手メーカーに2200万円余りで注文した。
移動に車いすを使う壮史さんは、数センチの段差でも衝撃でたんが気道にからみ窒息する恐れがあった。望んだのは、安心して暮らせる「完全バリアフリー」のわが家だ。
もう少しで完成という15年10月、壮史さんは容体が急変。病院で25歳で息を引き取った。
悲しみも癒えない翌月、引き渡された自宅で両親が目にしたのは、要望とは異なる玄関の急傾斜スロープや部屋の間仕切りなどの段差だった。「壮史の形見の家なのに」。翌16年、大手メーカーに建て替え費用などを求め訴訟を起こした。
争点は、注文が完全バリアフリーだったか否か。メーカー側は段差が記された図面に父親の承認印があることを根拠に否定した。
東京地裁は父親が上棟式で、段差を把握し抗議したこと、両親に住宅建築の十分な知識や経験がないことを考慮。メーカー側の対応を手厳しく批判し、計約540万円の支払いを命じた。このうち50万円は住むはずだった壮史さんへの慰謝料だが、「賠償で償いきれるものではない」と指摘した。
原告代理人の栄枝明典弁護士は「建物の瑕疵(かし)で慰謝料が認められるのは画期的」と話す。一方で、判決が建て替え費用を認めなかった点は「老いれば誰もが障害者と同じような暮らしを余儀なくされる。健常者ならば使えるという判断は、問題の本質を理解していない」と批判した。
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