いつの間にか一緒にいた仲間がおらず、自分がどこにいるのかもわからなくなった――。北海道北広島市仁別で17日、山菜採り中に遭難した札幌市の男性(49)が語り始めた。「山菜採り歴数十年」で「道央の山を知り尽くしている」との自信があった。だが、初めての遭難を振り返り、考えを改めた。「山は怖い。油断をすれば経験者でも迷ってしまう」。5月は山菜採りシーズンのまっただ中。注意が必要だ。【金将来】
17日午前5時半。前日までの雨が上がり、肌寒い朝だった。山菜採り仲間3人とともに向かったのは仁別の低い山。何度も訪れたことがあった。林道のスペースに車を止め、湿った土を踏んで山に分け入った。
男性たちのグループが山菜採りをする前に必ずすることがある。林道と林の境界となる「入り口」にスピーカーを置いて、音を響かせるという。林の中で万が一、迷っても音を頼りに入り口まで戻ることができる。
この日はタケノコがたくさん採れた。リュックに詰め込み、グループは一度、車に戻ってトランクに積んだ。休憩を挟んで、午前9時に再び、山へ向かう。「奥まで入らないし、スマホも上着も置いていこう」。男性の少しの気の緩みが、その後の悲劇を招いた。
タケノコ採りを再開したのは「林道からほんの数十メートルのところ」だった。すると、なぜかスピーカーから聞こえていた音が途切れた。不思議に思いながらも「深いところまで入っていない」と気にせず、作業を続けた。
夢中になってタケノコを採りながら歩き、気づけば「すり鉢状」のくぼみを下っていた。「そろそろ帰ろう」とくぼみの上を目指して「引き返した」つもりだった。だが、仲間の姿はなかった。名前を呼んだが返事もない。自分の現在地も分からなくなっていた。
「来た道を真っすぐに戻ったんだ。でも、歩く方角が少しずれてしまったのかもしれない。すり鉢状だから、上に向かえば向かうほど、方角の誤差が広がってしまって……気がついたら、目指していた場所と自分の位置がまったく異なっていたのだと思う」
男性は「川を下れば必ず街に出られる」と考え、3時間ほど茂みの中を歩き続けた。だが、肝心の川が見つからない。体力を消耗しないように、せっかく採ったタケノコをすべて捨てた。次第に不安が膨らみ、「今日はここで寝るしかないかもしれない」と思い始めた男性。持っていたはさみで草木を切り、即席の寝床をつくったという。
水も食料もスマホもない。何よりも山の中で一人という孤独が苦しかった。「このまま、自分は死ぬのだろうか」という諦めも頭をよぎったが、恐怖を振り払い、「何とか明るいうちに……」と希望を捨てず、林の出口を探し続けた。午後0時半ごろ、ついに林が開け、自力で下山することに成功。心配して警察に連絡した仲間とも合流できた。
男性は「本当にあの時は死を覚悟したね。ちょっとの油断でここまで自分の位置を見失うと思わなかった。紙一重で下山できた。気を引き締めて山菜採りをしたい」と語った。
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https://mainichi.jp/articles/20230519/k00/00m/040/146000c
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