【北京=三塚聖平】中国各地で軽油不足が深刻化している。電力の使用制限を受け、軽油を燃料とする自家発電機を使う工場が増え、軽油の需要が一気に増したことが要因とみられている。同じく軽油を使用するトラック輸送に影響を与えるほか、中小企業の工場もコスト上昇に苦慮しており、さらなる景気悪化につながる可能性もある。
中国のニュースサイト「財新網」は26日、「全国で軽油の需給が逼迫(ひっぱく)し、各地で給油所が制限」と報じた。河北省石家荘の給油所では軽油は1回100リットルを上限とするトラックの給油制限を設けた。安徽省阜陽では多くの給油所が軽油を販売していなかったり、数十リットル程度に制限。長距離の依頼を断るトラック運転手も出ているという。
財新網は「軽油需要は突然、思いがけず増した」とし、9月から続く電力不足の影響を指摘する。中国本土の約3分の2に相当する地域で停電や供給制限が発生。各地の工場で注文に対応するため自家発電機を稼働し、軽油を買い求めたとみられる。9月は軽油の商業用在庫が大幅に減った。
国際市況の影響で価格上昇も続き、特に中小企業への打撃は大きい。産経新聞の取材に応じた上海市郊外で物流倉庫を経営する男性は「燃料代は以前と比べて30~40%も上がった。負担が重くてやっていけず、経営権を手放すことを決めた」と苦境を語った。電力制限に合わせて自家発電機を契約したが、1回使うだけで軽油代は6千元(約11万円)もかかったという。軽油の需給逼迫は3カ月程度続くとみられ、さらなる景気悪化が懸念される。
電力不足は、火力発電用の燃料である石炭の価格高騰に加え、中央政府から二酸化炭素排出量の削減を求められた地方政府が一気に電力の供給制限を進めたことも響いた。電力不足の深刻化で景気や社会への悪影響が懸念される中で習近平政権は、今度は二酸化炭素の排出量が多い石炭火力発電のフル稼働へ動く。
10月8日には李克強首相が開いた会議で、電力確保へ石炭火力発電所の稼働強化や石炭の増産を指示。石炭産地である内モンゴル自治区で炭鉱の生産拡大を求めたほか、インドネシアなどから石炭輸入も急ぐ。
31日からは英グラスゴーで第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が始まるが、中国の温暖化対策は一時的に後退することになりそうだ。
産経ニュース 2021/10/29 19:37
https://www.sankei.com/article/20211029-W5PFH76L4FIKZL77XRUK4BWQ2U/