石破茂です。ウクライナ情勢について、メディアは危機が差し迫っていると盛んに報じていますが、私は少々懐疑的に見ています。映像もいつ、どこで撮影されたのかもわからない同じようなものが流されていて、日時や場所が特定されたリアルなものがほとんど見られないのには大きな違和感を覚えています。ウクライナのNATO加盟自体、北大西洋条約の条文からはかなり困難なことと言わざるを得ず、そのウクライナを防衛することにアメリカの世論は今のところ否定的です。であるにもかかわらず、ロシアが明日にでも戦争を起こすようなイメージがむしろアメリカを中心とする欧米メディアから醸成されているように見受けられるのは、各国の色々な思惑があるものと考えられ、良く整理して考えたいと思います。
もちろん、「力による現状変更」は全く許されるものではありません。そしてこの原則をないがしろにすると、それはただちに台湾情勢にも跳ね返ってきます。この原則をきちんと踏まえた上で、今ウクライナ周辺で起こっていることは、2014年の騒乱に端を発したクリミア侵攻、いわゆるドンバス地方における戦争、に重なる三つめの出来事として考えるべきです。ドンバス地方の戦争終結にはドイツとフランスが加わっており、この枠組みと現在の米露間におけるやりとりは基本的に別に行われています。カーボン・ニュートラルの実現に熱心なドイツにとっては、ロシアからの天然ガスの供給が重要であり、なんとしても経済制裁を回避したいという思惑もあるようです。ロシアとしても欧州に天然ガスが売れなくなる事態は避けたいのでしょうが、中国に売るという選択も十分にあり得ることだと思われます。
もちろん、アメリカは二正面を相手にしたくはないでしょうし、アメリカ世論も中国に対しては強硬です。あまり日本国内においては報道されない北大西洋条約そのものとNATO基本文書やロシアとの合意文書をきちんと理解・分析しないままに、単純化してこの問題を論じてはならないと痛感しています。かなり前の著作ですが、「NATO 21世紀からの世界戦略」(佐瀬昌盛著・文春新書・1999年)をもう一度きちんと読み直したいと思います。
http://ishiba-shigeru.cocolog-nifty.com/blog/2022/02/post-63c2a9.html