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「自分で殺して、燃えるごみに出してと言われた」。アライグマの駆除を自治体に相談したという福岡県直方市の60代女性から、西日本新聞「あなたの特命取材班」に投稿が寄せられた。北米原産で特定外来生物に指定されるアライグマは、全国各地で食害などを引き起こしている。しかし殺処分を担うのは負担が大きく、自治体の対応はまちまちだ。現場では手探りの対応が続く。
女性宅の家庭菜園からブドウの房がなくなりだしたのは6月ごろ。センサーカメラを設置したところ、アライグマが写っていた。市役所に相談すると、箱わなを貸し出され、自分で殺処分するよう指示された。
わなを設置したが、捕獲できず、ブドウはすべてなくなった。鶏小屋の網が破られ、ペットとして飼っていた鶏もいなくなった。
直方市の担当者は当初、西日本新聞の取材に「鳥獣保護法に基づき、わな設置者が処分する必要がある」と回答した。環境省に問い合わせると、捕獲したアライグマを自治体が殺処分することは法令上「問題ない」との説明。再び市担当者に聞くと、「市が殺処分を委託する猟友会のメンバーが高齢化し、イノシシ、シカの駆除で手いっぱいだが、アライグマの対応も今後検討したい」と、説明を一変させた。
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日本獣医師会は「アライグマは気性が荒い。不慣れな人の殺処分は勧められない」としている。
福岡県久留米市では市職員が対応し、わなを貸し出した住民から捕獲連絡があれば職員が回収。わなごと専用ケースに入れて二酸化炭素(CO2)で酸欠死させる。昨年度は職員6人で計79頭を殺処分した。
ただ職員の精神的な負荷は大きい。市担当者は「本来はペットで輸入された動物。心理的にきつい」と明かす。負担軽減のため2人一組で作業する。
同県朝倉市は委託する猟友会が殺処分を担うが、重労働の埋却作業が課題。同県糸島市は直方市と同様に市民による殺処分を前提に箱わなを貸し出している。
埼玉県ではアライグマの家屋侵入などが問題化。2007年に駆除の実施計画を策定し、県内の全自治体と連携して対応してきた。県と市町村が住民ら向けの研修会を開いてわなの設置・捕獲に協力してもらう一方で、殺処分は市町村や獣医師会、委託業者が担う仕組みが浸透しているという。
元埼玉県職員でアライグマ対策に詳しい古谷益朗さん(63)=同県狭山市=は「殺処分が駆除の一番のハードル。狩猟経験がある高齢者を自治体が殺処分のために非常勤職員として雇用するなど、関係者の負担を軽減する仕組みを作る必要がある」と指摘している。
アライグマ全国で繁殖 農産物、人家破損被害が増加
アライグマは、しま模様の長い尾(20~40センチ)が特徴で、目の回りに黒い帯状の模様がある。雑食性で鶏なども食べる。繁殖力が強く、過去30年でほぼ全国に拡大した。
環境省の資料などによると、1977年にアライグマを主人公とするテレビアニメ「あらいぐまラスカル」が全国ネットで放送され、人気に。ペットとして大量輸入されたが、どう猛なため捨てられたり、脱走したりして野生化した。
90年代半ばには本州と北海道の11道府県で分布が確認されていたが、2017年までの調査で九州7県を含む44都道府県に拡大。九州では福岡、佐賀、長崎、大分が多い。
農林水産省によると、19年度の農産物被害額はスイカやブドウなど約3億6000万円で、04年度比で3倍近くに増えた。人家の天井裏などにも侵入し、ふん尿や設備損壊の被害もある。
05年に特定外来生物に指定された。駆除手続きは外来生物法に基づく「防除」と、鳥獣保護法に基づく「捕獲許可」の2種類。猟銃やわなの免許取得者は法定の期間中に狩猟が行える。