8日投開票の衆院選では、政党党首の演説でジェンダー平等や多様性の後退を招きかねない発言も出ている。家族のかたちや幸せ、「平等」の認識を巡り、考え方や環境が異なる人を無視することにならないか。専門家と発言の重みを考えた。
参政党の神谷宗幣代表は1日のJR新宿駅前の街頭演説でこう訴えた。
「子どもを育てて初めて、親も成長させられる。それが人類の当たり前の形じゃないですか」
「もちろん産めない方もいらっしゃるから、その人たちを責めるつもりはありません。けれども適齢期で、健康で、結婚できる方は結婚していただいて、子どもを産み育ててもらいましょうよ」
厚生労働省が2022年に行った「21世紀出生児縦断調査」では「子どもがいて良かった」と答えた約2万2千人のうち6割が「自分の視野が広がった」と答えた。ただ東大大学院の瀬地山(せちやま)角(かく)教授(ジェンダー論)は「それを『人類の当たり前』と断定する神谷氏の強烈な『規範化』は、当てはまらない多くの人を排除してしまう」と警告する。
■子なし世帯は20%増
経済協力開発機構(OECD)の24年報告によると、50歳時に子どものいない日本の女性は約28%。夫婦のみで子どもがいない世帯も増加傾向で20年国勢調査では全世帯の20%超に上る。背景には、経済的理由や不妊などの理由で子どもを望んでも諦めざるを得ない人もいれば、自らの選択で子どもを持たない人もいる。
神谷氏は5日の演説で「子どもを産み育てることが幸せだと思ってくれないと、絶対に子どもは増えない」とも訴えた。
瀬地山教授は「結婚して子どもを産むことだけを良しとする主張は、多様性を排除し、本来、それぞれが自由に歩めるはずの人生のあり方を否定している」と指摘。さらに、その「当たり前」は健康が前提となっており「差別や優生思想にもつながる」と懸念する。
高市早苗首相は1月30日の福岡市内の演説で、大相撲の「土俵の女人禁制」について「私は土俵に上がりません」と宣言。「土俵に女性は上がれない。それを怒っていた女性政治家もいたが、これは男女平等とかそういう話じゃない。大切に守られてきた日本の伝統の話だ」とも主張した。
■国のトップの言葉の強さ
日本相撲協会は「土俵は神聖なる場所であるため」などとして「土俵の女人禁制」を守る。歴代首相は東京・両国国技館で事情が許せば総理大臣杯を授与してきた。初の女性首相となった高市氏の動向が注目されたが、1月の初場所は男性の大臣が代理を担った。
日本の祭りや相撲などには今も女人禁制の慣習が残り、伝統か差別かを巡ってしばしば議論を呼ぶ。1990年初場所では女性初の官房長官となった森山真弓氏が総理杯を渡したいと求め、2000年代には春場所が開催される大阪府の太田房江知事(当時)が同様に要請。だが協会はいずれも伝統の観点から断った。18年には大相撲の地方巡業で土俵上であいさつ中の地元市長が発作を起こして倒れ、救命処置のため土俵へ上がった女性に土俵から下りるよう場内放送が流れ、協会に対して「人命より伝統か」と非難が相次いだ。
瀬地山教授はこの「土俵と女性」問題に関し、首相が「男女平等の話じゃない」と明言した点を問題視する。「男女平等より伝統が優先するという話で、伝統か差別かとの議論を封じてしまう。性差別にもつながりかねない」と指摘。「『ワークライフバランスを捨てる』発言と同様に国のトップの言葉はメッセージ性が強く、他者への強制に波及する恐れもある」と語る。
https://news.yahoo.co.jp/articles/50cea593b0b2b3c34471acd09ccbe665d8fd245e
