2016年、滋賀県甲賀市の古刹「大岡寺」から15年前に姿を消した国の重要文化財、「木造千手観音立像」と「木造阿弥陀如来立像」の2体の仏像が、複数のブローカーの手を経て、東京都品川区の安楽寺に渡っていたことが判明した。
その後、大津地裁で、この2体の仏像の所有権をめぐる両寺の争いが繰り広げられたが、大津地裁は18年、安楽寺に対し、仏像を大岡寺に戻すよう命じる判決を下した。
ところが、その判決から約1年後の19年、2体の仏像が大岡寺から安楽寺に〈無償譲渡〉され、さらにその2年後の21年、安楽寺から、熱海の美術館を運営する東京都千代田区の財団に売却されていた。つまり2体の仏像は判決後も、安住の地を得られないまま、彷徨い続けていたわけである。
一体、なぜ、そんなことが起こったのか……。私は、ことの真相を確認するため、大岡寺から仏像2体の〈無償譲渡〉を受け、さらにそれを千代田区の財団に売却した当時の安楽寺の住職を直撃したところ、冒頭のように彼は何も答えようとはしなかったのだ。<中略>
■「2体合わせて50億で売れる」
住職にとって禁じ手である、寺の財産に手を付けていたA氏。そんなA氏のもとに、2体の仏像が持ち込まれたことから、彼の浪費は一気に加速し、負債も膨れ上がっていったという。
「安楽寺に仏像を持ち込んだのは、A氏の幼馴染で、檀家でもあった建設業者のB氏。誰がB氏に仏像を引き渡したのかは知りませんが、B氏が第三者から借金のカタに取り上げたと聞きました。
二人は初めから、仏像を売り払うつもりでした。ただ、一個人である『B氏の所有』より、『安楽寺の所有』としたほうが高く売れるだろうと踏んだ2人は、B氏からの寄進という形で、安楽寺の所有という体裁を整えたのです」(同前)
A氏は「2体合わせて50億で売れる」と皮算用していたという。その売却益を見込んでさらに借金を重ね、「自分にはベントレー、息子にはジープを買い与え、60フィートのクルーザーに、ヨットハーバー近くのマンション、山中湖に別荘を購入する」(同前)など、次々と散財していった。
一方で、仏像を譲って欲しいという申し出も何件かはあったようだが、二人があまりに高値をふっかけたため、なかなか売れず、A氏は逆に借金を重ねることになったようだ。<中略>
■「天台宗にとって前代未聞の大事件」
実は天台宗務庁は、A氏と同時期に、同じく品川区にある「観音寺」の住職で、A氏の僧侶の後輩でもあるC氏を事情聴取している。A氏はC氏を土地取引に巻き込んでおり、C氏もまた本山に無断で観音寺の不動産を処分し、莫大な負債を抱え込むことになっていたのだ。さらにA氏は、すでに負債を抱えていたC氏から「仏像が売れたら返すからと、1億1500万円もの金を借りていた」(前出・天台宗関係者)という。
観音寺は、都内の天台宗の寺院の中でも、有数の資産を持つ寺として知られていたが、最終的には他の寺から3億円の借金をするなど、首が回らなくなっていたというのだ。
天台宗務庁による審判の結果、A氏に巻き込まれた観音寺住職のC氏も21年9月27日付で擯斥処分を受け、天台宗僧侶の身分を剥奪された。が、その処分から6日後の10月3日の未明、C氏は自ら命を絶っている。享年48という若さだった。
「僧侶の先輩で、日頃から世話になっていたA氏から誘われるままに不動産取引にのめり込み、気がつけば、自分ではどうしようもない額にまで負債が膨れ上がっていた。なんとか寺の財政を立て直そうと悩み、もがいた末に、自死を選んだのでしょう。彼はもちろん、残された家族が不憫でなりません」(前出・宗務所長)
安楽寺と観音寺の法人登記によると、A、C両氏が擯斥処分を受けた後、ともに「小林祖承」という人物が「代表役員代務者」として就いている。
「小林さんは、天台宗の『参務』。天台宗の責任役員であり、天台宗全体の財産に責任を負っている方です。宗務庁での肩書きは『総務部長』。その小林さんが今回、(天台宗のトップである)宗務総長の命を受けた『特命代務』として、両寺の代表役員代務者に送り込まれた。このことからも分かるように、今回、A氏が起こした問題は、被害額の大きさや、その内容からみて、天台宗にとって前代未聞の大事件であることは間違いありません」(同前)
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