WBCで悲劇的な大ケガをしたエドウィン・ディアスの騒動を思い返してみる。
現メジャー界「最高の守護神」と呼ばれ、3月のWBCでプエルトリコ代表として戦ったメッツの抑え右腕。フロリダ州マイアミで行われた1次ラウンドの最終戦、準々決勝進出をかけたドミニカ共和国との大一番で、3点リードの9回のマウンドに上がり、3者連続三振と圧巻の投球でチームの突破に貢献した。ところがその直後、仲間と飛び跳ねながら勝利を祝っていた際に右膝蓋腱しつがいけんを断裂し、今季中の復帰が絶望的に。この大ケガで沸き起こったのがWBC不要論である。「所属チームに支障をきたす大会なんて……」と。
「WBCは意味のないお遊び」
米国の野球ファンは困惑し、特にメッツファンは怒りや悲嘆で荒れ狂った。プレー中のケガならまだしも試合後に……。避けられたケガだと思う一方、アドレナリンが出た状態では致し方なかったともいえる。
ESPNのコメンテーターとして有名なキース・オルバーマン氏はツイッターで「WBCは意味のないお遊び。ファンに違うユニホームを買わせるため、本物のシーズンをないがしろにして選手に負担をかけ、お祖母ちゃんが昔そこで子孫を作ったというだけでチームメートがバラバラになる。今すぐやめろ」とほえた。
選手たちは擁護「WBCのせいにしたくない」
そんな批判に真正面から立ち向かったのは、大会に出場した選手たちだった。米国代表のマイク・トラウト外野手(エンゼルス)はディアスがケガをした日に「この大会は、僕がグラウンド上で経験した中でも至高。リスクはもちろんあるが、この雰囲気の中で戦うのは特別なことだ」と擁護し、同じく米国代表のムーキー・ベッツ外野手(ドジャース)も「ケガはいつでも、誰にでも起こり得る。WBCのせいにはしたくない」と発言した。
ドミニカ共和国代表のGM兼選手だったネルソン・クルーズ外野手(パドレス)は大会中に「WBCは本物のワールドシリーズ。ドミニカ共和国の人々にとってこの大会は重要だし、だから僕らも国を代表する重みを感じてプレーしている」と語り、ベネズエラ代表のオマー・ロペス監督(アストロズコーチ)は「この大会を継続し、我々の人生の一部にするべき。リスクはもちろん負う。選手が国を代表して戦うことを望んでいるのだから、出場するすべての国を我々みんながサポートしていかなければならない」と熱弁を振るった。
「殺人事件が起きなかった」プエルトリコとWBC
思わぬ惨事の当事者となったプエルトリコ代表にも、WBCを否定する選手は誰一人いなかった。名捕手として昨季で19年の現役生活を終えプエルトリコ代表監督に就任したヤディエル・モリーナは「チームが戦っていたこの4~5日間、プエルトリコでは殺人事件が起きなかった。国民みんなが僕らの戦いぶりに満足してくれていたということ。僕らのため、そしてシュガー(ディアス)のために祈ってくれて感謝します」と語っている。犯罪や貧困、政情不安が当たり前の中南米では、WBCとのかかわりはより切実だ。プエルトリコ国内ではドミニカ共和国との試合が61%の視聴率を記録したほど、社会的影響力を持っていた。
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https://number.bunshun.jp/articles/-/857144
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