ドラマ撮影していた6年前に脊髄(せきずい)損傷の事故に遭い、車いす生活を送る滝川英治さん(44)のイラスト作品展「口火」が、16~24日に横浜市港北区の「障害者スポーツ文化センター横浜ラポール」で、1月13~21日に同市都筑区の商業施設「港北TOKYU S・C」で開かれる。口でペンをくわえて描き続けている作品の多くにリンゴが登場する。そこに込めた思いとは――。【宮本麻由】
滝川さんは、大学在学中に俳優としてデビューした。CMにも出るなど活躍したが、2017年にドラマ撮影中に運転していた自転車が縁石にぶつかり転倒した。病院に運ばれ目が覚めた時、夢なのか現実なのか分からなかった。動揺する家族の姿に、根拠なく「大丈夫」と自身に言い聞かせるしかなかったという。
けがをしてから最初の3カ月は寝たきりで、今後の人生設計やストーリーを想像することで気持ちを紛らわせた。頭の中で物語も作って主人公を登場させ、絵にしてみようと思った。4カ月目ごろから口にペンをくわえ、タブレットに絵を描き始めた。最初からうまくできた訳ではないが続けた。「何かにすがりたかったのかな」
次第に周囲から「面白いね」とほめられるようになり、気持ちに変化が生まれた。体が思うように動かせなくなり、生きることに後ろ向きになったこともあった。だが「誰にでもできることがあることを伝えたい。障がいがあっても同じように生きていけるという目標になりたい」と思えるようになっていた。21年には自身をなぞるような絵本「ボッチャの大きなりんごの木」を出版。主人公ボッチャが自転車事故に遭い、再び笑おうと決意する物語だ。
滝川さんの絵やイラストにはほぼ共通してリンゴが登場する。それには特別な思いがある。18年に亡くなった父が生前、事故に遭った滝川さんにリンゴをよく届けてくれた。体が不自由になっても、仕事の再開に強く背中を押してくれた優しさや気遣いがうれしかった。リンゴを愛に例える一方、優しさが重圧になり、何も応えられない自身を責め続けたこともあった。そうした困難や絶望の意味もリンゴに込めた。
けがをしてから6年。「何度もはね返されて、下を向きそうになったこともあった。それでも諦めず、人は何度でもはい上がることができることを証明したい。絵を描き続けたことを誇りに思っている」
作品展には、これまで描いてきた作品と新作合わせて約35点が展示予定。作品展のタイトル「口火」には、物事が起こるきっかけという意味がある。滝川さんは「自分が口火を切っていくことで、世の中の凝り固まっている固定観念に新しい風を吹かせることができると思う」と力強く語った。
https://mainichi.jp/articles/20231220/k00/00m/040/030000c