安全保障環境の変化に合わせた防衛力の整備は必要だろう。ただし、目的や費用対効果を明らかにし、国民の理解を得ながら取り組まなければならない。
来年度予算案の防衛費は、デジタル庁計上分を含めて5兆4005億円に上り、8年連続で過去最大を更新した。
背景には、周辺国による軍事活動の活発化がある。中国は軍拡と威圧的な海洋活動を続け、北朝鮮は迎撃が難しい変則軌道の弾道ミサイル開発などを進めている。
防衛費はこれまで国内総生産(GDP)比でほぼ1%以内に抑えられてきた。今回は約0・96%になる見通しだ。
ただ、防衛省は今年度補正予算分と合わせた総額が6兆1744億円になると説明している。前年度と比べて大幅増となり、GDP比は1・09%に達する。
4月の日米首脳会談で、政府は防衛力強化を約束し、自民党は衆院選で「2%以上を目標」と公約していた。規模の拡大を内外に印象付ける狙いが透けて見える。
政府は来年末に、国家安全保障戦略や防衛大綱を改定する。併せて、5年間の装備品や予算の上限を定める中期防衛力整備計画も見直す。6兆円超えを既定路線に、さらに上積みを狙う考えだろう。
今回の特徴は、研究開発費を今年度比で4割弱増やし、2911億円と過去最大にしたことだ。
次期戦闘機の開発や、電磁気を使って弾丸を超高速で撃つ技術などの研究に充てる。射程の長い国産の巡航ミサイルを艦艇や戦闘機からも発射できるようにする。
「敵基地攻撃能力」を保有するかどうかの議論を待たずに、装備の開発が進む。国民的な理解を欠いたまま、専守防衛の原則を曲げるようなことは認められない。
中国を念頭に南西諸島の防衛力強化も急ぐ。石垣島にミサイル部隊を置き、与那国島では電波の収集・分析などに当たる電子戦部隊の配備に向けた準備をする。
しかし、「安全保障環境の悪化」という言葉を錦の御旗(みはた)に、防衛費をなし崩しで膨らませることは許されない。
政府はまず具体的な脅威を見定め、明確な戦略を描かねばならない。そのうえで必要な装備や態勢を国民に説明する責務がある。
毎日新聞 2021/12/28
https://mainichi.jp/articles/20211228/ddm/005/070/090000c