(要約略)イタリアでは何百万人もが同じような話を抱えている。ほとんどの職業にきちんとした規制の枠組みが適用されないという、欧州で特異な状況に置かれた同国は、賃金水準が30年にわたって停滞している。
ユーロ圏全般は消費者物価の高騰に伴って、賃金も上昇する気配が見える。だがイタリアは域内第3位の経済規模を誇りながら、そうした流れとは無縁だ。
第1・四半期にユーロ圏で妥結された賃金は前年同期比で2.8%上がった。主導したのはドイツで上昇率は4%に達した。一方イタリアの上昇率は0.6%に過ぎない。
経済協力開発機構(OECD)がまとめた欧州22カ国の1990年から2020年までの実質賃金上昇率はもっと対照的だ。スペインの上昇率は6%、バルト諸国に至っては200%を超えるのに、何とイタリア1カ国だけが3%の下落となった。
OECDのこうしたデータは、「なぜイタリアは安定的で十分な給与が得られる雇用を生み出せないのか」という議論を巻き起こしている。そしてエコノミストが用意した答えは、特に教育と技術分野への過小投資、低い生産性、景気拡大の勢いの弱さが負の連鎖をもたらしているというものだ。また問題の根も深い。
ローマのルイス大学とパリ政治学院で経済学の教授を務めるフランチェスコ・サラチェノ氏は「われわれは1980年代に間違った成長モデルを選択してしまった。グローバル化への対応で、ドイツのような質の高い生産につながる投資をするのではなく、コストを下げて新興国と競争しようとした。つまり安月給が続いたというわけだ」と説明した。
<機能不全の労働市場>
イタリア経済は1999年のユーロ導入以降、加盟19カ国で最もさえないままだ。イタリア中央銀行によると、時間労働当たりの生産でほぼ測定できる労働生産性は1995年からの伸び率が13%と、ドイツの44%を大きく下回っている。
この落差の背景には、急速な高齢化や労働者の技能の低さを含めたさまざまな問題が存在する。さらにイタリアがユーロに加盟したため、競争力維持のために自国通貨を切り下げるという手っ取り早い対策も封じられた。
「闇経済」の規模が大きいのもイタリアの特徴だ。とりわけ南部では、一部の正規雇用を持つ労働者が収入を補うために非正規雇用でも働き、これら非正規雇用は公式の賃金統計に反映されないうえ、賃金が一段と低く設定されていることがほとんどだ。
1990年代以来の幾つかの改革措置によって、イタリアの労働市場はある部分が規制緩和され、低賃金の非正規雇用が増える余地が広がった。今では新規雇用の過半数はこうした非正規雇用が占める。
4月の非正規労働者数は315万人超と1977年以降の最高水準を記録した。
ミラノのボッコーニ大学の労働経済学者ティト・ボエリ氏はイタリアの労働市場について、大半が改革以前に採用されてがっちり保護されている人々と、改革後に雇われて雇用の保障がなく賃金が低い人々の間で分断され、機能不全に陥っているとの見方を示した。
同氏は「真の問題は非正規雇用から正規雇用の契約に切り替えるのが極めて困難なところにある」と話す。
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https://jp.reuters.com/article/analysis-italy-employment-idJPKBN2NY0BB
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