■「ネットのニュースはタダ」という誤解
ただ、放送局がティーバーやHulu、radikoなどに活路を見出すように、新聞社も独自のニュースサイトを充実させ、月額契約の有料配信を新たな収益源にしようとしています。私も「サンデー毎日」の編集長の後、毎日新聞のデジタルトランスフォーメーション本部という部署で、その充実と強化に携わりましたが、まだまだ紙の収益には遠く及びませんでした。
というのも、ネットのニュースはタダ(無料)だと思われる方が多いからです。今もよく、ネットでニュースを検索して「この記事は有料です」と出ると読まずに離れたり、中には怒ったりする方もいます。でも、情報は決してタダではないことをご理解いただきたいのです。
実際、ネット上で流れているニュースの多くは新聞などの報道機関が取材したもので、そのために、例えば全国紙は国内の県庁所在地や政令市など、さらに海外の主要都市にも支局や特派員などを配置し、年間数十億円規模の費用をかけて日々取材を続けています。ネット専業のニュースサイトでそういう体制を取っているところはまだありません。
記者教育もそうで、キャップクラスの記者を育てるには、10年以上の期間と、それまでに1人当たり1億円程度の費用がかかります。
今は、多くの新聞社が本業だけでその費用を賄えなくなり、不動産やさまざまな付帯事業で稼いで取材網を支えているのが現実です。
■新聞がなくなったときに喜ぶのは誰か?
先ほど、このままのペースで部数が減り続ければ、2030年代に新聞は無くなると言いました。私はそうはならず、どこかで踏みとどまると考えていますが、もし仮にそんなことになったら、現場で取材して得られる一次情報は激減し、不確かな情報や、政府や役所が発表する情報が多くを占めるようになるでしょう。
そうなったときに喜ぶのは、情報をコントロールしたい権力者や、隠したいことがある人たちです。現にアメリカでは、地元紙が経営難で廃刊になった直後から市の幹部が給料を毎年吊り上げて、行政官は大統領の2倍、市議会議員に至っては相場の20倍以上の給与を得ていました。これを暴いたのはロサンゼルス・タイムズの記者でした。
この逆風の中で日本の新聞はまだ頑張っています。毎日新聞の後輩たちも、障碍者らが強制的に不妊手術を受けさせられた旧優生保護法の問題や、子どもたちが介護を担っている実態を伝えた「ヤングケアラー」の問題など、埋もれた声をすくい取る調査報道に取り組んでいます。
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https://rkb.jp/article/162087/
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