執刀は研修医、ドナーは生きた女性…
日本人男性患者(53)が目撃した“海外臓器移植ツーリズム”の恐怖
「意識は戻りましたか?」「ついさっき死んだ
縁を切ったはずの「難病患者支援の会」のてのひらの中に意図せず入り込んでしまった小沢さんだが、すでにキルギスまで来ており引き返すこともできなかった。しかし、やはりこの手術ツアーが臓器売買である気配を感じたのも、到着から数日後だったという。
「いつものように外へみんなでご飯を食べに行くと、酔っ払った菊池が『今日心電図いったでしょ? そん時、待合室に女の人がいたでしょ?』と聞いてきました。そして『それが小沢さんのドナーだよ』と言われたんです」
小沢さんは渡航前、仲介した都内にクリニックを持つ医師から「合法だ」と聞いていたため、死体からの移植だと思っていた。しかし生きている人からの移植となれば話は変わってくる。
「ホテルに帰って現地で世話をしてくれた難病患者支援の会の日本人の男性コーディネーターに確認すると、『モデルみたいな綺麗な人です』と言われて、全然話にならない。臓器売買みたいなことをしちゃったらサポートしてくれた仲間に顔向けできないと思い菊池に相談すると『大丈夫、ちゃんと死体からもらったように診断書は作るから安心して!』と言われ、唖然としました」
ウクライナで2017年、臓器売買で逮捕された50代のトルコ人ブローカーが、ウクライナ人の貧しいドナーをキルギスに連れてきて、菊池容疑者が『ドナー料』を払い紹介してもらう。ウクライナ人ドナーには、日本人名義の偽造パスポートが渡され、ドナーと患者は親族という建前で移植を行う。そんな流れを知ったのも後になってからのこと。難病患者支援の会のパンフレットでは「NPOとして現地ドナーとの接触は皆無であります」と否定しているが、裏ではブローカーと協力した売買が行われていたようなのだ。
小沢さんの心は揺れた。自分が臓器売買に関わるつもりはない。しかしすでに2000万円以上の大金を振り込み、息子も友人から「お父さん、募金詐欺師なの?」と不信感を向けられたことで引くに引けなくなっていた。そして何より、手術を受けなければ自分の余命がいくばくもないことが決断の邪魔をした。
それでも小沢さんは、最終的に手術を断念した。それは別の日本人患者の手術が、大失敗に終わったことがきっかけだった。
■一緒に手術を待っていた2人が死亡、1人が意識不明に
「渡航から2週間ほどたった12月中旬、現地で半年待っていた50代の日本人女性と、アラブ人3人が第一陣で手術を受けることになったんです。その中の1人のアラブ人女性の夫に手術後にたまたま会うと『まだ妻の意識が戻らないんだ』と青ざめた顔をしていました。そして翌朝、『意識は戻りましたか?』と聞くと『ついさっき死んだ』と言われました……」
手術に失敗して命を失う。「次は自分の番」と感じ、小沢さんは言葉を失った。
「手術を受けた4人のうち、数日以内にアラブ人2人が死亡したんです。日本人女性もしばらく意識が戻らず、重苦しい空気が流れていました。その数日前にも日本人男性が部屋のトイレにうずくまっているのが見つかり、『うー』とうめきながらコーディネーターの腕に抱きかかえられて急死したばかりでしたから」
手術ミスの原因は、何だったのか。
「後にわかったミスの原因は、麻酔の過剰投与でした。そもそも、この病院は産婦人科などが専門で、腎臓手術の経験は全くなかったんです。日本人女性のオペに至っては、腎臓を移植しようとしたら、動脈の長さが足りず、太ももを20センチ切って動脈を取り、それで何とかつなげたというお粗末さ。担当した人はこともあろうか、研修医でした。小学生の図画工作じゃねえんだよと怒りがわいてきました」
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https://bunshun.jp/articles/-/60962
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