佐賀県唐津市のJR筑肥線西唐津駅から海の方に10分ほど歩いたところに江藤造船所はある(図1)。この江藤造船所は昭和13年に創業し、それ以来、その時代に適応した船殻材料を利用した小型船を建造し、顧客のニーズに応えてきた。主力製品として造っているのが、アルミ合金を利用した小型高速旅客船、小型高速レジャー船、そして小型底引網漁船である。
もともとは木船を造っていたが、1970年から木船より軽くて性能の良いFRP(繊維強化プラスチック)船の建造を開始した。しかし、FRP船は廃棄できないという欠点があり、廃船の処分が問題化したため、いち早くアルミ合金船の建造に取り掛かった。アルミは廃棄ができ、FRPより軽いということで、建造する船はFRP船からアルミ合金船に移行していった。ちなみに現在、世に出回っている小型船はほとんどがFRP船だそうだ。しかし、アルミ合金船は、錆びるため塗料を塗らなければならず、その塗料が海洋汚染につながるという欠点も持ち合わせていた。
そんな中で社長が目を付けたのがチタンであった。チタンは錆びないため、塗料を塗らなくてもよくて、アルミよりも強いので、船の板厚を薄くすることができ、さらに高速で燃費の良い船を造ることができる。材料の強度を密度で割った比強度という単位があるが、強度を降伏応力で定義した場合、小型船に一般的に使われているアルミ合金とチタンを比較すると、チタンのほうが5倍以上の比強度を持っている。つまり、チタンとアルミで降伏応力を同じにする場合、重さが船の板厚に比例すると考えるとチタンはアルミの5分の1以下の重さでよいということである。
しかも錆びないということは半永久的に使えるということであり、今現在2隻のチタン船が使われているが、1つはもう20年から30年もの間使われているそうだ。一般に、FRP船は10年、アルミ合金船は20年というのが漁船の寿命らしいのだが、それを考えるとチタン船が優れていることがわかる。図2は、国内初の純チタン船である。また、純チタン船を建造しているのは世界でも江藤造船所だけなので、アメリカ海軍が興味を持って、訪ねてきたこともあるという。
ただ、欠点はコストである。チタン船に興味を持つ船主さんはたくさんいるが、値段を聞くとお断りされてしまうそうだ。今後、さらなる実用化に向けて部分的にアルミ合金を利用するなどの工夫をしてコスト削減を図る計画だと言われた。
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