1:名無しさん




・しかし、先に 述べた通り質的調査でしか得られない情報や利点があることは確かなのですから。 弱点があるからといってすべてナシにしてしまうのは、あまりにもったいないので す。 社会学者たちは、なんとかこうした調査の弱点をカバーする方法を考えて. 日々改良を続けています (これは量的調査においても同様です。 サンプリングによる統 計的誤差の修正など)。 たとえば、客観性・中立性. および検証可能性については、 分析的帰納法という方法を採用することで、かなりカバーできるといわれています。 ベッカーなどもこれを採用していますが、 分析的帰納法とは 事例分析により構成 された仮説が他の事例に適合しない場合には仮説を再構成し、 適合しない事例がな くなるまで仮説の再構成を繰り返す。 という方法です。
私もよく卒業論文の指導中に. 「何人にインタビューすればいいですか」 なんて 聞かれるのですが そういうときは 「仮説が検証できたといえるまで」と答えます。 だから運がよければ, 4~5人で終わることもあれば、10人でも. 20人でも終わ らないかもしれません。 そして、 仮説を立てずに, 漠然とAさんBさんに聞いただ けで、 「だいたいこんな話?」 ではいけません。 手順を踏んで、入念に確かめていく。 そのプロセス, メソッドがちゃんとあるのです。

・こうしてすでに書かれた研究を見ると,書かれている順序どおりに研究が進 んだかのように, 一見読めてしまいます。 つまり、先に先行研究から出てきた 問題意識があり,それにもとづいて問いが立ち,その問いにしたがって調査を する,という順序です。しかし実際には,このような流れで研究が進むわけで はないのは,ここまで見てきたとおりです。 最初に漠然とした問題関心があり とにかく調査をしながら先行研究を検討していき, 結論で書きたいことが決ま ると,それにあった形の問いを最後につくる, というのが現実の流れでした。 それをあたかも 最初に問いが決まっており,それにしたがって調査をしたか のようにして書く、これが研究の作法なのです(このように書く理由は、先にも 述べたとおり,読み手に問いをクリアに伝えるためです)。

・ このように,質的調査の信用性を高めるために様々な工夫が考えられているので すが,それでもなお, 量的調査や理系の学問と比べてなんだかいい加減だな、と思 うかもしれません。 しかし, 実は「理系」 だって同じような問題を抱えているので す。量子力学(物理学の一分野) の有名な理論の一つに,「(ハイゼンベルクの) 不確定 「性原理」というものがあります。 それによると, 物質を構成する小さな単位の一つ である電子は,常に動いているのですが, それを観察するため光をあててしまうと, どうしても光の影響を受けて運動量を変化させてしまうというのです。 つまり、 対 象に影響を与えない観察は原理的に不可能であるということです。 電子の世界です