29日、岸田文雄新総裁を選出した自民党は、急進的な変化でなく安定感を、いわば「守り」を優先した。事前の調整通り、1回目の投票で3位だった高市早苗前総務相の陣営が、決選投票でこぞって岸田氏に乗る戦術「岸田・高市連合」が実現。その改革志向で世論の人気を博していた河野太郎行政改革担当相を包囲し、封じ込めた。党内派閥、実力者の駆け引きを基とした「内輪の論理」による決着は、迫る衆院選にどんな副作用をもたらすのか。
「河野太郎君、255票。岸田文雄君、256票…」
午後2時すぎ。1回目の投票結果を野田毅・総裁選挙管理委員長が読み上げた瞬間、国会議員で埋め尽くされたホテルの会場をどよめきが包んだ。大方の予想を覆し、河野氏が首位を取れなかったからだ。党員・党友票で頭一つ抜け出し、議員票も手堅く3桁に乗せるはずが、議員票は86票と伸びを欠き、114票の高市氏にも後れを取った。
「これで誰も文句は言えないだろう」。1回目を何とか2位でしのぎ、決選投票で逆転する展開を思い描いていた岸田氏の陣営幹部が独りごちる傍らで、隣席の党幹部は「うわっ、こんなことがあるのか」。思わず、声を上ずらせていた。事実上、軍配が岸田氏に上がった瞬間だった。
約2時間後。完勝の歓喜に沸く岸田氏の勝利報告会に突如、高市氏が姿を現した。「離れがたい『チーム』だ。一緒に力を合わせて党を盛り上げていきましょう!」。自身の善戦もあってか、張りのある声が響いた。
対河野の「岸田・高市連合」は、周到に準備されていた。
大規模な経済対策、憲法改正、外交方針…。高市氏の陣営幹部によると、両幹部間で政策のすり合わせも済ませ、決選投票は「岸田氏一元化での協力」を確認し、「計算通り」に事は運んだ。高市氏をバックアップしてきた安倍晋三前首相も「あとは人事だね」と周囲に漏らし、出身派閥・細田派の処遇要求をにおわせ、つまり暗に“岸田首相”にかじを切っていたという。
「ずいぶん、切り崩したからね」。原発政策や皇室問題などで相いれないだけでなく、自身に盾突く石破茂元幹事長、小泉進次郎環境相と組んだ河野氏の進撃をストップさせた安倍氏。会場から帰途に就く際は達成感も漂わせた。
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