今夏の新型コロナ第5波は急速に収束し、9月以降は国内の新規感染者数は低い数字で安定している。
ファクターXと呼ばれる日本人特有の何らかの要因が関連しているのではないかとの議論が国内にあったが、海外の報道機関もヨーロッパなどとの差異に注目し始めている。ただし、要因の断定には時間がかかりそうだ。
日本の状況は、ほかのアジア諸国と比較しても安定している。
ロイター(12月9日)は「日本の新型コロナ感染者数は、リバウンドをみせるアジアのその他地域と対照的に減少しており、専門家を当惑させている」と述べている。100万人あたりの日別の新規感染者数は1人を割っており、経済大国のなかでは中国を除いて最も少ない水準だ。
米フォーチュン誌(12月10日)は、アジア全般に感染ペースの鈍化がみられるとしながらも、それでも日本の状況は特異的だとみている。
「現時点においては、日ごとの死者数でオーストラリアや韓国さえも下回る」との指摘だ。国民の平均年齢が46歳と高齢化の進む日本にとっては、「現在のところ勝利」といえる状況だとしている。
ブルームバーグ(12月11日)も、日本の日別死者数が1人を下回っていることから、「パンデミックの本格的な到来以来、G7加盟国で日別死者数がここまで低下した国はほかにない」と論じている。
日本において状況が改善した理由ははっきりとわかっていないが、海外メディアは可能性のある要因をいくつか挙げている。
ロイターは日本の国立遺伝学研究所の井ノ上逸朗教授の見解として、AY.29と呼ばれるデルタ株の亜型が日本では広まっており、まだ確証があるわけではないものの、これがほかの株から結果的に人々を守っている可能性があると紹介している。
AY.29はゲノムの修復能力に欠陥があり、複製に伴って蓄積するエラーを修復する能力に劣る。
カナダの地方メディア『トゥデイ・ヴィレ』も、考えられる要因のひとつとして、日本の流行株におけるタンパク質の変異を挙げている。同じく井ノ上教授の見解を取り上げ、ウイルスのエラー修復を担うタンパク質である「nsp14」に変異が生じていると解説する。
このほかの要因として同誌は、欧米人やアフリカ人に比べ、アジア人はAPOBEC3Aと呼ばれる酵素を多く持つとも紹介している。この酵素は、新型コロナウイルスを含むRNAウイルスから人体を防御する機能を担う。
そのほか、一般に言われる生活様式の差異も新型コロナの流行に影響している可能性がある。ブルームバーグはワクチン接種の浸透に加え、「ほぼ全員の、しかも自発的な、マスクの着用」が貢献したのではないかとみる。
ロイターは、ワクチンのタイミングも幸いしたのではないかとの見解だ。日本では立ち上がりが遅れたが、結果としてヨーロッパが再びピークを迎えている現在、まだ高い抗体レベルを維持できている可能性がある。
香港大学のカレン・グレピン教授(公衆衛生学)はフォーチュン誌に対し、アジアの国々がヨーロッパや北米よりも経済活動の再開に慎重であることが効果を生んでいる可能性もあると指摘する。
いずれにせよ、専門家たちも現段階では確証をもてないという。冬場の再燃も懸念されることから、引き続き感染対策が必須となりそうだ。
https://newsphere.jp/national/20211216-1/