自民党が単独過半数ラインを上回り、野党第1党の立憲民主党が議席を減らした今回の衆院選。31日午後8時に、報道各社は各党の獲得議席の見通しを一斉に報じましたが、予測にはばらつきがみられました。
それぞれ調査データをもとに報じているはずなのに、なぜ違いが生じるのか。約25年間にわたって選挙報道や世論調査にかかわってきた朝日新聞社の堀江浩編集委員(選挙・世論調査担当)に聞きました。
――朝日新聞社では、どのように情勢を予測したのですか。
全国289選挙区の計8670投票所を選び、投票を終えた有権者に投票先や支持政党を回答してもらいました。有効回答は41万1467人。調査の量や質を保ちながら経費を削減するため、今回から共同通信社など5社と合同で実施しました。なので、朝日新聞社を含む6社は同じデータを使っています。
――調査データが同じなら、合同で実施した各社は同じ予測になるのではないですか。
それは違います。コンピューターで自動的に予測をはじき出しているわけではありません。担当者が調査の誤差や傾向を考慮し、データを評価しているのです。
朝日新聞社の場合は、報じるまでには三つの段階があります。
まず、生データが同じでも、どのように集計するかで違いが出てきます。年代をどこで切って分析するか、といったことです。
第2段階は、集計データをもとに289の選挙区ごとに各候補者の「当選確率」を付けていきます。「当選は間違いない」という人は100%、「五分五分」の人は50%、というように。その結果の積み上げが獲得議席数の「推計値」になるのです。
当選確率を付けるためには、候補や政党に応じて表れる調査の「くせ」を把握しなければなりません。これまでの選挙結果と出口調査を読み込み、出口調査が高く出る傾向があるか、低く出る傾向があるかなどを調べます。新顔候補の場合は、支持基盤などが似た過去の候補を当てはめたりして推測します。
第3段階として、推計値をもとに、見出しや原稿の表現を社内で検討し、報じます。
――全選挙区を一つ一つ、堀江さんは見ているのですか。
そうですね。私が全選挙区を見て、当選確率を付けていきます。
――31日の投開票日はどのようなスケジュールで作業を進めたのですか。
午前7時から出口調査が一斉に始まります。全国のデータを1、2時間おきにダウンロードして、その都度、読み込みます。
投票が終わる午後8時に出口調査の結果を報じなければならないので、午後7時ぐらいには最終方針を決めなければなりません。その2、3時間前からいくつもの推計値が頭の中を回っています。緊張感が続く分刻みの作業です。
――今回の衆院選は特徴がありましたか。
ワンイシューのような選挙でなく、熱気の盛り上がりに欠け、風を読みにくかったですね。投票率が大きく上がると結果を読みにくくなります。投票率は高いに越したことはないのですが、投票率が低水準だったことは私の立場では判断しやすかったと言えます。
投票結果と出口調査の結果は毎回、ずれます。どちらの方向にずれるかの評価を誤ると、予測は大きく変わってしまいます。
まずはデータをしっかり分析する。それが自分の見立てと違う結果となったら、思い込みはさっさと捨てる。とにかくデータに向き合うことが大切だと改めて感じています。
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ほりえ・ひろし 1986年、朝日新聞社に入社。社会部記者、世論調査部長などを経て2016年から現職。約25年間にわたって選挙報道や世論調査に携わってきた。
朝日新聞 2021/11/1 22:09
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