顧客への「神対応」がネットで絶賛された元お客様相談室長が「間違いだった」と反省するワケ
客からの暴言や暴行、不当要求などで働く人の就業環境を害するカスタマーハラスメント(カスハラ)。クレームに対するお詫びとして多量の菓子を渡す慣習を断ち切り、業界全体のルールづくりに取り組むのが菓子業界だ。
菓子業界の消費者対応を行う「日本菓子BB協会」は2017年、菓子の現物がなければかわりの商品を送らないという共通ルールを決めた。カルビーでお客様相談室長を務めた経験もある、日本菓子BB協会のアドバイザー・天野泰守さんに悪質クレームの実態や取り組みを聞いた。(ライター・国分瑠衣子)
●「顧客創造」のため、多量の菓子を送る慣習がエスカレート
――業界の共通ルールを決める前は、悪質クレームにどう対応していたのでしょうか。
クレームがあった商品のお詫びとして、たくさんの商品の詰め合わせを渡す慣行がありました。
工業製品と違い、お菓子は焼いたり揚げたりする過程でどうしても形にばらつきが出ます。お客さまの主観による「欠けている」とか「味が合わない」などの要望を全部受け入れてしまっていたんです。
本来なら現物を送ってもらって原因究明・再発防止策を行うべきなのに、現物がなくても商品を送っていました。「たくさんの商品をあげればお客さまが喜ぶ」とか、「顧客創造のため」という理由をつけてエスカレートしていったのです。菓子は非常に多くの種類があり単価が安いです。単価の安さから安易な理不尽なクレームに対しても強く言えなかった面があったと思います。
緊急性を要しない案件でも「取りに来い」と言ってきて、手土産を持ちお客さまのところへお詫びに行く場合、手土産代や交通費、人件費を考えると100~300円のお菓子が1万円以上になるケースもあります。
フリーダイヤルもそうです。20年ほど前に「お客さまのために」と各社が右へならえで一斉にフリーダイヤルを導入しました。企業がフリーダイヤル費用を負担するのは、原因究明や再発防止という意識からではなく、お客様が喜ぶカスタマーサクセスのためだと勘違いしていたと思います。
いまだにフリーダイヤルを貫いている会社もありますが、セーフティーネット的な役割は電話だけでなくなりました。料金の安いナビダイヤルに切り替えた会社も多いです。
●大手の過剰な対応が中小企業を苦しめていた
――長く続いた慣習を変えたきっかけは何だったのですか。
カルビーから日本菓子BB協会に出向した2015年、あることに気付いたからです。菓子業界は業界全体の売上高の約8割を大手30社ほどで占めています。が、中小企業もたくさんあります。中小の菓子メーカーが大手の過剰なクレーム対応で大変な思いをしていました。
中小企業には営業マンが全国に3、4人ほどの会社もあります。大手がやっているような対応はとてもできません。大手がクレームに過剰対応することで「あの会社ではこれぐらいやってくれたのに、おたくはやってくれないのか」と言われていたのです。理不尽な要求を断ることができなくなってきた企業側の非もあります。
そこで業界全体で統一した対応をしようと2017年に「現物がなければ、かわりの商品は送りません」とルールを決めました。スタートしてから今年で5年ですが定着してきました。
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