かつて音楽用カセットテープやビデオテープに用いられていた磁気テープ。後発のハードディスク駆動装置(HDD)などにすっかり駆逐されたかと思いきや、コンピューター用の記憶媒体として現在も顧客を獲得し、米グーグルや米マイクロソフトも手放せない存在なのだという。世界シェア7割を持つ富士フイルムの工場を訪れ、令和の時代までしぶとく生き残った磁気テープの進化に迫った。
JR小田原駅から車で10分ほど、富士フイルムの神奈川事業場小田原サイトに足を踏み入れると、ガラスの向こうに「シャーシャー」という音を発しながら黒いテープが高速で一直線に流れていく様子が見える。
サンプルを触らせてもらっても、ほとんど厚みを感じない。このテープが複数の滑車を経由しながらぴんと張られて流れていく間に、磁性体の含まれた液を塗布し、磁性体の向きをそろえる作業を行い、そして乾燥させる。
別の場所では「スリット」という工程が行われていた。先ほどのテープを規格通りの幅に切る。テープが円状の刃に触れると、スルスルと切れていく。厳格な品質管理の下、こうして作られた磁気テープが世界に向けて出荷される。
富士フイルムの調べによると、2020年度のコンピューター向け磁気テープの出荷量(記憶容量ベース)は世界で50エクサ(1エクサは10億ギガ)バイト以上と、その10年前の約3倍になった。
なぜ、いま磁気テープなのか。それを探ってみると、11年に起きたある出来事にたどり着いた。
グーグルとユーザーを救う
11年2月27日、グーグルの電子メールサービス「Gmail」で障害が発生した。メールの一部がクラウドから消失するというトラブルで、ユーザーの1万人に2人の割合で影響が出た。障害の規模はそれほど大きくなかったが、もし自分がその1人になってしまったら皆肝を冷やすだろう。
翌28日、グーグルは公式ブログで原因は「記憶装置のソフトウエアを更新したときに発生したバグ」と説明。即座に古いバージョンに戻して対応したという。結局、障害からおおむね回復したのはバグ発生から3日後の3月2日。このとき、グーグルがメールのバックアップデータを取り出したのが、磁気テープだった。
グーグルのウェブサイト上で公開されているサイトの運用手法をまとめたテキストには、11年のトラブルが取り上げられ、磁気テープを用いてデータを復元させた初めての大規模なケースとして紹介された。時代遅れとも思える磁気テープをなぜ使っていたのかということについて、「故障などから(データを)守るためには多層的な保護システムが必要」と記していた。
さらに12年にはグーグルの音楽配信サービスで60万曲分のデータが消失するトラブルが起こり、約2万人に影響を与えた。この時バックアップで活躍したのも、約5000巻にのぼる磁気テープだった。
磁気テープをバックアップに用いているのはグーグルだけではない。マイクロソフトもデータの保管に磁気テープを用いていると公表しており、IT(情報技術)企業を中心に採用が広がりつつある。
現在、磁気テープではLTO(リニア・テープ・オープン)という規格が事実上の世界標準だ。このテープで世界生産の7割のシェアを持つのが富士フイルムだ。執行役員で記録メディア事業部長の武冨博信氏によると「最近はIT企業や病院からの問い合わせが増えている」と言う。
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https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC273UV0X20C22A6000000/
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