ロシアによる侵攻が続くウクライナで、貴重な文化財が破壊の危機に瀕(ひん)している。既に博物館1カ所が被害を受け、貴重な絵画が焼失した。ロシア軍が迫る首都キエフには聖ソフィア大聖堂などの世界遺産もあり、人的被害の拡大とともに、歴史や文化の遺産が損なわれることも危惧されている。
「博物館の専門家へのリスクと、文化財への脅威を懸念している」。世界の博物館関係者らでつくる国際博物館会議(ICOM)はロシアの侵攻が始まった2月24日、声明でこう訴えた。美術館の運営などを行う米国のゲッティ財団も28日、「数百万の芸術作品が危機にさらされている。とてつもない悲劇が起きている」と危機感をあらわにした。
ウクライナ外務省などによると、北部イバンキフの博物館ではロシア軍の攻撃で、20世紀の代表的な民俗画家マリア・プリマチェンコの作品約25点が焼ける被害が出た。キエフでは3月1日、ナチス・ドイツにより多数のユダヤ人が虐殺された峡谷「バービヤール」に隣接するテレビ塔が爆撃され、近くにあるユダヤ人墓地の建物にも着弾したという。
1956年発効の「武力紛争の際の文化財保護条約」(ハーグ条約)は、文化財やその周辺への攻撃を禁じており、ロシアとウクライナも批准している。だが、ロシア軍は市街地への攻勢を強めており、今後も被害が拡大する恐れがある。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、ウクライナにはキエフの修道院建築群など7カ所が世界遺産に登録されている。日本ウクライナ文化交流協会(大阪府)の小野元裕会長(52)は「キエフはスラブ文化発祥の地で、ウクライナには貴重な美術品や書籍も多い。市民は文化財を誇りに思い大切にしてきただけに、被害が出ると思うと胸が張り裂けそうだ」と語る。【金子淳】
https://mainichi.jp/articles/20220304/k00/00m/030/028000c
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