ロシア空軍がウクライナの制空権を掌握できない理由
西側の軍事専門家たちは、ウクライナ戦争の開戦当初、ロシアが制空権を掌握して簡単に勝つと予想した。しかし、この予想は外れた。<中略>
しかしロシア空軍の役割は異なる。ロシアは空軍に対し、すべての領域での航空優勢(制空権)確保を要求しない。ロシア空軍は地上軍の作戦に支障をきたさぬよう、最前線での局地的な航空優勢の確保のみに注力する。
ロシア空軍のこのような戦い方は、旧ソ連時代の地上戦中心の軍事教理から抜け出せていないことによるものだ。ソ連軍は第2次世界大戦や冷戦時代に、強大な戦車・砲兵戦力で敵の防御線に風穴を開け、突破口を拡大し、敵を包囲・殲滅するという軍事教理にもとづいて訓練していた。現在のロシア軍も同じだ。ロシア空軍は最前線の上空で地上軍を火力支援するという教理に縛られている。ロシア空軍は「空挺砲兵(airborne artillery)」と呼ばれ、最前線の地上軍の火力支援任務に従属している。敵の領土の奥深くに移動して空を支配する攻撃はロシア空軍ではなく、ミサイル部隊などが担う。<中略>
ロシア空軍は大規模な航空作戦の遂行経験がないため、航空作戦の企画能力が不足しているという点が限界としてあげられる。世界で大規模な航空作戦を企画・遂行する能力を持つ国は米国が唯一だとされる。1991年の湾岸戦争では、米空軍が作戦を立てるのに1カ月、各種航空機を集めるのに20日あまりかかった。ロシアのプーチン大統領には、ウクライナ戦争の開戦前に軍の高官たちと大規模な航空作戦を協議・企画する時間が足りなかったとみられる。
教育と訓練の不足もロシア空軍の問題点としてあげられる。ロシア空軍の戦闘機のパイロットの年間飛行時間は100時間未満で、西側のパイロットの最低である180時間(平均は220~240時間)とは大きな差がある。ロシアは熟練したパイロットが不足している。空軍戦闘機の熟練したパイロットは10年以上の経歴を積まなければならないが、ロシアは短時間で大量にパイロットを養成しているため、操縦機能の質的低下を招いた。熟練した整備員と部品の不足により、ロシア空軍の航空機の稼働率も西側に比べて低いという。
ロシア空軍は兵器システムの性能が低く、精密誘導兵器も足りないという。ロシアは冷戦崩壊後、航空機開発に必要な先進技術の開発が遅れ、最先端技術が用いられている西側の航空機に多くの部分で遅れを取ることになった。ロシアの航空機はハードウェア(航空工学)は非常に優秀だが、ソフトウェア(航空電子)は不十分で、現代空軍力の中心である精密誘導兵器の性能が落ちる。ロシアの兵器には「ターゲティング(照準)ポッド」がない。この装置は、空軍機が地上の標的を識別し、精密誘導兵器をその標的に誘導するために使用される標的指定ツールだ。ターゲティングポッドのないロシア空軍は、非精密武装投下訓練を主に実施している。
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