■日本の半導体産業、世界と何が違うのか
このように、日本の半導体企業の株価は、全体としてみれば、顕著な上昇とはとても言えない。それは、日本の半導体産業は、世界の最先端半導体産業とは大きく違うからだ。
ルネサスエレクトロニクスの主力製品は、自動車積載用半導体であり、AIに関係する半導体ではない。キオクシアの製品も、メモリー半導体だ。ソニーの製品はイメージセンサーだ。つまり、日本の半導体産業は、アメリカで成長している最先端のロジック半導体企業とは異質のものなのである。これを見ても、重要なのが半導体そのものではなく、AIであることがわかる。
「日本の半導体産業は、1980年代には世界を制したが、その後衰退した」と、よく言われる。しかし、この見方は不正確だ。
1980年代においても、日本が強かったのは、DRAMというメモリー半導体だけだった(DRAMは、日本で発明されたもの)。CPUと呼ばれる演算用の半導体は、アメリカのインテルが支配した。日本の技術では、歯が立たなかったのである(そのインテルを、いまNVIDIAが追い抜いたのだ)。
現在のロジック半導体は、CPUが進歩したものだ。この分野で日本が弱いという基本構造は、そのときと変わらない。その後、日本の半導体産業は、メモリーの分野においても衰退した。それは、サムスンなどの韓国企業の追い上げに負けたからだ。
最近の株価上昇には、半導体以外にも要因があるとの見方がある。それは、日本企業が変革に成功し、世界からの信頼を集めるに至ったということだ。
海外からの対日投資が増えているのは、事実だ。しかし、それは、中国経済の落ち込みによって、それまで中国に向かっていた投資が日本に来たという側面が大きい。いわば、「敵失」だ。
■株価が上昇している根本的理由
また、半導体関係以外の企業の株価が上昇しているのも事実だ。しかし、その原因は、円安だ。
トヨタ自動車の株価が、2024年初から3月5日までの期間に2702円から3565円へと1.32倍に上昇したのが、その典型例だ。これは、東京エレクトロンの上昇率とあまり変わらない。また、商社の株価も上がっている。三井物産の株価は、年初の5405円から6816円へと1.26倍になった。
円安によって企業の利益が見かけ上増えることは、これまでも起こったことだ。それがいまの円安局面でも起こっているに過ぎない。
円安になって円ベースの輸出額が増えても、ドルベースでは変わらず、鉱工業生産指数に見られる実体的な生産活動は増加しない。他方で、円安は、国内物価を引き上げ、日本人を貧しくする。だから、望ましい現象とは言えない。
しかも、今後の日米金融政策によって為替レートが円高に転じれば、傾向は逆転してしまう。まことに脆弱なものだ。
https://toyokeizai.net/articles/-/740774
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