過去にプーチン支持表明の指揮者、音楽界から完全に追放される
ヴァレリー・ゲルギエフといえばクラシック音楽愛好家からはもちろん、世界中から「21世紀の偉大な指揮者の1人」と認知されています。
ゲルギエフは1953年ソ連生まれ、レニングラード音楽院で学び、その後ソ連崩壊の混乱を目の当たりにしながらマリインスキー劇場を率いてきました。彼は元々オペラ・バレエのレパートリーを多く演奏してきたマリインスキー劇場管弦楽団のレパートリーを大きく広げ、ベートーヴェンやマーラー、ショスタコーヴィチらの交響曲も演奏。それによって同管弦楽団の地位を国際的に高くしたという大きな功績があります。1990年代からは世界的な名声を獲得し、日本でもNHK交響楽団をはじめたくさんのオーケストラを指揮しました。
彼が若い演奏家の発掘や育成に大変力を入れていることも注目に値します。日本ではPMFという音楽祭(選抜された若手が、世界で活躍する一流の音楽家から指導を受け演奏会を行う、世界三大教育音楽祭の1つ)で2015年から19年まで指揮者を務めました。
筆者の住むオランダでは、「優勝したらゲルギエフと共演できる」のが売りの、若手ピアニストを対象にしたYPFピアノコンクールがありました。筆者は高校生の頃からゲルギエフの名盤の1つでもあるリムスキー=コルサコフのシェエラザードの録音を愛聴してきたので、「あんな凄い指揮者が学生と一緒に演奏してくれるなんて……」と感動したことを今でも覚えています。優勝した友人はマリインスキー劇場管弦楽団とゲルギエフの指揮で演奏し、「ゲルギエフはマフィアみたいな怖い人かと思っていたけど、実際は優しく接してくれてビックリした」と言っていました。
今回ゲルギエフがなぜ槍玉に上がっているのかというと、彼は過去30年に渡りプーチン大統領と親しく交流があり、08年の南オセチア紛争の際には自身がプーチン大統領を支持していることをBBCのインタビューで発言。12年の露大統領選ではプーチン氏応援のためのテレビ広告にも出ていたからです。
そして、彼は今回の侵略戦争に関しては頑なにノーコメントを貫いています。侵略戦争が始まって以来、ミラノ・スカラ座、カーネギーホール、ロッテルダムフィルハーモニー管弦楽団、ミュンヘンフィルハーモニー管弦楽団など世界的な演奏会場やオーケストラが次々と公演のキャンセルや解任を発表。いずれもプーチン大統領を支持しない声明をゲルギエフから聞けなかったので、このような制裁をした形となっています。
さらには彼の所属事務所であったFelsner Artistsも契約解除を発表。これにより彼は西側の音楽界からは完全に追放されたといえます。
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