水素があれば「ロシア依存」から抜け出せる…欧州が着々と進める次世代エネルギー戦略のしたたかさ
金融・経済制裁に反発するロシアがヨーロッパ向けの天然ガスの供給を絞り込んだことは、かえってEUの脱ロシア化に向けた意思を強固なものにしたと考えられる。
特にロシアに対する依存度が高かった天然ガスに関しては、米国などからの液化天然ガス(LNG)輸入の増加に加えて、地中海・西アフリカでのガス田開発といった試みが進む模様である。
また天然ガスに代わるエネルギー源も必要となるが、脱炭素化の理念にも適う水素は、EUにとってはまさに打ってつけの次世代エネルギーということになる。
■アドリア海で大規模な実証実験が始まった
EUの執行部局である欧州委員会が、化石燃料の「脱ロシア化」を掲げて2022年5月に公表した行動計画である「リパワーEU」の中でも、再エネ発電によって生産した水素の利用を広めていく方針が強調されている。
脱炭素化と脱ロシア化の両立を図りたいEUにとって、水素の利用は確かに有効な戦術になりえるのかもしれない。
その水素の利用に向けた実証実験が、アドリア海の沿岸で始まることになった。
中心となるのは、アドリア海に面する人口210万の小国スロベニアの国営電力会社HSEである。このHSE社は2月1日に、自社が主導する水素利用の実証実験を開始するに当たって、EUから2500万ユーロ(約35億円)の補助金を獲得したと発表した。
■水素の生産から利用までの一貫したバリューチェーンを構築
この実証実験の正式名称は「北アドリア海水素バレープロジェクト」という。いわゆる官民連携のかたちで、水素の利用に向けた研究・開発を後押しすることがその目的である。先導役のHSE社に加えて、スロベニアとクロアチア、そしてイタリア北東部フリウリベネチア・ジュリア州の政府が参加し、さらに34の事業体が参加する。
このプロジェクトの下で、各事業体は水素の生産から利用までの一貫したバリューチェーンを構築し、今後の水素の利用に向けた可能性を探ることになる。
将来的に再エネ由来の水素を年間5000トン生産するとともに、製造業や交通網で用いることが最終目標となる。プロジェクトの期間は6年間が想定され、2023年後半の稼働を目指す。
EUには「ホライズン・ヨーロッパ」という、EU加盟各国の研究・開発投資を支援するための補助金支援プログラムが設けられている。このプログラムの予算は、EUの中期予算(多年次財政枠組み)から拠出されるが、今回、HSEが主導する水素利用の実証実験は、このホライズン・ヨーロッパによる補助金支援を得ることになる。
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