6月に発砲事件のあった岐阜市の陸上自衛隊射撃場で、訓練を再開した今月6日、出入りする車両に乗っていた若い隊員が報道陣らに中指を立てるしぐさをするなど、不適切な行為をした。ただでさえ、自衛隊内では、セクハラやパワハラを巡る問題が噴出。社会常識や時代感覚とのずれは一向に改善されていないように見える。巨大組織を変えるには何が必要なのか。(岸本拓也)
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防衛省によると、不適切な行為は6日朝に確認された。守山駐屯地(名古屋市)に拠点がある第35普通科連隊に所属する20代の男性1等陸士が、岐阜市の日野基本射撃場へ向かう車両の中から報道陣に向けて中指を立てるしぐさをした。訓練後に射撃場から出る際にはピースサインもしたという。
◆当初は「見えてしまっただけでは」と否定
守山駐屯地は当初、「中指を立てたように見えてしまっただけでは」などと行為を否定。その後上官が隊員に聞き取りしたところ、「軽い気持ちで、冗談半分でやった」と話したことから翌7日に一転、不適切な行為だったと認めた。
木原稔防衛相は同日の記者会見で「大変遺憾。厳正に対処する」と強調。この射撃場では6月に自衛官候補の男(18)が自動小銃で隊員3人を死傷させる事件が起きただけに、木原氏は「訓練再開に向けての大切な日であるという正しい理解があったのかも含めて事実関係を確認する」と話した。地元・愛知県の大村秀章知事は「社会人としてふさわしい所作を身に付けて」と苦言を呈した。
なぜ不適切な行為に及んだのか。元陸自レンジャー隊員の井筒高雄さんは「隊員の多くは、自衛隊関係者の中だけで生活する。閉鎖的な特有の社会空間で生きてしまうので、時に一般的な社会通念と外れた行動をする。今回も社会的な影響の大きさを考えないで、仲間内のノリで軽はずみにやってしまったのではないか」と推察する。
◆五ノ井里奈さんの性被害で特別監察中…セクハラで問題対応
井筒さんは、自衛隊の一般感覚のずれは、深刻なハラスメント問題にも通じているとみる。
海上自衛隊内では昨年、セクハラを受けた女性隊員に対して、本人が拒否したにもかかわらず、上官が加害者の男性隊員との面会を強要して謝罪を受けさせていた。女性隊員はこの対応を苦に退職。元陸自隊員の五ノ井里奈さんによる性被害の訴えを機に特別防衛監察が行われていたさなかのことだった。
防衛白書によると、21年度にハラスメントで懲戒処分を受けたのは173件と、19年度の82件から倍増。相談件数も22年度は2122件と、ここ5年で3倍以上に増えた。
◆「自衛隊の常識は社会の非常識」の覚悟を
防衛省や自衛隊の上層部は問題が起きる度に「ハラスメントを許さない」というメッセージを出すが、被害は増加の一途。来年1月をハラスメント防止月間と位置付けて、集中的に防止教育などをするというが、実効性は心もとない。
内部統制に詳しい青山学院大の八田進二名誉教授(会計学)は「不祥事を起こす組織は、トップが号令をかけてもどこかで情報の目詰まりを起こしている」と指摘し、「被害者の多くは弱い立場にある女性や若者。彼ら彼女らが考えている組織の問題点や、情報伝達の方法など、時代に見合った対策を提言してもらって、防止策に反映することも一案だ」と新しい目線の必要性を訴える。
同時に「ハラスメントは人権問題であり、もはや許されないということを繰り返し、あらゆる層の幹部にたたき込むことが必要。厳罰化も意識を変える手段の一つだ」と説いた上でこう続ける。「『自衛隊の常識は社会の非常識』というくらいの覚悟を持って継続的に取り組んでいかなければ、巨大な組織の意識は変えられない」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/289069
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