野口悠紀雄:一橋大学名誉教授
・TSMC熊本工場が生産スタート、年内には第二工場建設開始
日米の株価が今年になって急騰したのは、半導体関連企業の株価急騰が大きな原因だと言われる。
政府が熊本に誘致した世界最大のファンドリー(受託製造会社)である台湾のTSMCの工場が2月下旬に操業を開始したことが、日本の半導体産業復活のきっかけになるとも言われている。
操業を始めた第一工場に続いて年内には第二工場の建設が始まり、投資額は計約3兆円、このうち政府は最大1兆円を超える補助金を支出するという。
今後、10年間で地元の熊本県だけで雇用などを含めた経済波及効果は7兆円弱、九州全体での他の半導体関連企業を含めて約20兆円といった試算もでている。
だが、補助金による半導体メーカー誘致が本当の半導体産業の復活につながるかどうかは大いに疑問だ。
TSMCの熊本工場で、いまのところ生産が計画されているのは、AIなどに使われる最先端半導体ではない。そもそも日本の半導体産業の凋落には別の原因がある。<中略>
・10年前の技術を誘致しても日本の半導体産業は復活しない
TSMCの熊本工場が日本の半導体産業復活の起爆剤になるとの評価が一般的だ。しかし、私はこの評価は全く見当違いだと思う。
現在、世界最先端の半導体メーカーは4nmの半導体を量産している(nm/ナノメートルは半導体回路の線幅。これが小さいほど高度の技術)。アメリカがテキサス州に誘致するTSMCの工場は、4nmの最先端半導体を生産する。
しかし、熊本工場の第一工場で生産する半導体は、22/28nmおよび、12/16nmの製品と言われている。これは10年程度前の技術で、いまでは誰でも生産できる。この半導体は、隣にあるソニーの工場が生産しているイメージセンサーと組み合わされて使われると考えられる。ソニーにしてみれば、自ら設備投資をしなくても高性能半導体が利用できる。
また、地域振興の意味もあるだろう。しかし、日本の半導体製造の凋落の原因である大企業体質を変えることにはならないだろう。
第二工場では6~7nmと言われているが、それでも、日本の半導体産業を復活させるためにどの程度の意味があるかは、疑問だ。
さらに、半導体製造装置や材料についても、手放しで楽観できるわけでない。世界でのシェアは低下しているからだ。
世界的半導体ブームといって浮かれるのでなく、また、政府の補助金さえあれば日本の半導体産業が復活すると考えるのでなく、地道な努力を重ねることが必要だ。
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https://diamond.jp/articles/-/341933