というのも韓国の都市部では地下が発達。ショッピングモールなどでは地下6階まで駐車場というのも珍しくない。実際、ソウル郊外に住む知人(50代男性)のマンションを訪ねたことがあるが、その建物は地上11階。地下は4階まであり、1階がスポーツジムで2、3階部分が駐車スペースとなっていた。土地を有効利用していると思う反面、状況によっては同じような惨事が起こらないとも限らないと感じた。
その韓国では、8月上旬にも甚大な水害が発生していた。「115年の観測史上最大規模」という記録的な豪雨に襲われ、ソウルでも大規模な洪水が発生。カンナム地区の一部地域が水没するなど、8人が亡くなった。うち3人は低所得者層が住むと言われる半地下住民だった。その際にやり玉にあがったのが尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の対応のまずさだった。先ほどの知人が言う。
「大統領は翌日に現場を視察したんですが、当日は雨が降り続く中、執務を終えた後に自宅に帰ってしまい、それが明るみに出た。万が一、災害が起こったときは陣頭指揮しないといけない立場なのに、自宅だから当然、ヘリポートがあるわけでもなく、指揮系統も限られる。緊急事態に対応する準備を怠り、死者が出たことで市民から激しく非難されました」
そのため、ユン大統領は、今回の台風11号の接近に際しては度々メディアに登場。「完璧な対応をする」と豪語していたものだ。私も何度か、この場面をテレビでみた。しかし、自然の力には勝てず、言葉通りにはならなかった。知人が言う。
「汚名返上を狙ったわけですが、残念な結果になった。これで半地下問題は待ったなし、になったんではないですか。いままでは借りる方も貸す方もメリットがあったわけですが、命にはかえならない」
実際、韓国では半地下のアパートは長年の社会問題だった。歴史をたどれば、1950年に始まった朝鮮戦争でソウルの街は壊滅状態に。その後、60年代後半から復興を果たし、朴正熙大統領時代には爆発的に人口増になった。80年代に入ると住宅不足が深刻化したため、もともとは倉庫やシェルターの役割を果たしていた部分を住居として法的に認めると、一気に人が住み始め、それが半地下アパートの始まりとなった。
もちろん、家賃は地上物件の半額程度と安いとはいえ、湿気やカビなどで不衛生な面は否めない。何より、雨が降ると危険だった。国としても制限を加えるなど手をこまねいていたわけではないが、半地下物件は増え続け、2020年のデータでは全国に32万7000戸があり、そのうちソウルが20万戸もある。そこで政府は今回の事故を踏まえ、半地下アパートを違法と認定。今後20年の猶予期間を設け、段階的に撤去していくことを決めた。その際、月2万円の補助金を最長2年間出す方針も固めている。
しかし、実際のところ、それが可能なのか。元韓国MBC記者で東京に住んで14年になる金鐘祐さんは「韓国の貧困化は日本よりも激しく、補助金を出してもLHと呼ばれる生活保護受給者が住めるような住宅はなかなかない」と言及。「一方で高齢化と少子化は、日本以上のスピードで進んでおり、公団のようなものをたくさん建てても2050年には韓国の人口は3800万人になるというデータもある。建てても住む人がいなければ意味がない。双方のバランスを考えながら住宅問題に取り組む必要がある」と話す。
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