北京五輪、ゆがむ競技時間 巨額の放映権料、欧米TV局に配慮
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20日に閉幕する北京五輪。新型コロナウイルス禍で難しい調整を迫られた選手たちは、競技日程でも夜遅くの決勝戦への対応など、不慣れな昼夜逆転の競技を強いられた。背景にあるのが国際オリンピック委員会(IOC)に巨額の放映権料を払う欧米テレビ局への配慮だ。すでに2032年大会までの放映権料に巨費が投じられており、札幌市が招致を目指す30年冬季大会を含め、将来の大会運営にも影響が及びそうだ。
「早い時間の演技で体の切れはなかった」。4日午前のフィギュアスケート団体男子ショートプログラムの演技後、宇野昌磨選手はこう語った。冷静な滑りで自己ベストを出したものの、長いキャリアでほぼ経験がない異例の午前競技に戸惑いをにじませた。
競技時間の設定には欧米テレビ局の意向が強く反映され、人気競技は欧米の深夜や早朝を避ける時間で組まれたとみられる。普段、夕方から夜にかけて行われるフィギュアは、米国が銀メダルを手にした団体に加え、米国のネーサン・チェン選手が優勝した男子個人も北京の午前9時台(日本時間午前10時台)に始まり、スノーボードも大半が午前スタートだった。
■昼夜逆転で選手に負担
一方、ワールドカップなどで日中に行われるスピードスケートは、米国のエリン・ジャクソン選手が金メダルに輝いた女子500メートルが、今大会のスピードスケートで最も遅い午後9時56分(日本時間午後10時56分)に競技開始。欧州勢がメダルを量産したスキー・ジャンプは大半が午後7時(同午後8時)以降に行われた。
IOCの公開資料によると、13~16年のIOCの総収入は57億ドル(約6500億円)で、このうち放映権料が73%を占める。中でも、14~32年まで夏季・冬季合わせて計10大会の放映権を約120億ドル(約1兆3700億円)で買った米NBCテレビの影響力は絶大だ。フィギュアの午前競技は、NBCのスポンサー企業が集中する米東部で午後8時台のゴールデンタイムに行われた。
五輪の競技運営は「アスリートファースト」ではなく、IOCの「マネーファースト」とやゆされる。ただ、スピードスケートで冬季五輪3大会に出場した白幡圭史氏は「選手たちは割り切って戦っている」という。「競技の人気を高めるにはテレビが必要。スポンサーがつかなければ競技自体が廃れる危機感もある。IOCとは持ちつ持たれつの関係にある」と語る。
IOCは収入の9割を五輪実施競技の国際競技連盟や各国・地域の五輪委員会に分配している。東京五輪・パラリンピック組織委のある幹部は「こうした構図が競技時間の設定に対するIOCの強気の姿勢につながっている」と言う。
放映権重視の運営は今後も続くのか。
過去にIOCと放映権交渉をしていた元NHKプロデューサーの藤原庸介・流通経済大准教授は、近年はIOCの最高位スポンサーに中国企業が名を連ね、中東諸国が国際大会誘致に力を入れていることを例に挙げ、「IOCは今後、中国や中東にも経済規模に見合った放映権料を要求していくだろう」とみる。