1:名無しさん


確か22時過ぎだったと思います。
電話が鳴りました。

「Aホテルの高橋と申します。現在こちらでご宿泊中で、そちらにご宿泊予定の丸山輝様にお荷物を送らせていただきたいのですが、チェックインは5月20日でお間違いございませんでしょうか?」

私の妖怪アンテナが反応した。
丸山輝様というのは、京都に来られる時にはいつもうちをご利用頂いている、ある著名人の偽名。
Aホテルは誰でも知っている東京の有名なホテル。
偽名の方で言うのはまぁいいとして、チェックイン日の確認の言い方が気になる。

瞬時に2つの可能性を考えた。

①何か悪意のある者がその著名人の来る日、もしくはうちに泊まるかどうかを知りたがっている。

②その著名人の事務所の人が、うちが信用できるホテルかテストしている?でも、今更?

私はアホのフリをする事にした。

私「申し訳ございません〜💦僕、2日目のバイトでぇ〜💦調べてから折り返しお電話させていただいてもよろしいですかぁ〜?(ゲッ、しかも非通知やんけ!)」

「…………名前で検索するだけですよ?できません?」

私「はいぃ〜💦まだ教わってないんですぅ〜💦」

「他に出来る人に代わってください。」

私「今、他の人みんな、お客さんの部屋に呼ばれててぇ〜💦いつ戻るかわからないんですよぉ。あっ、フロントにお客さん来たみたいです!折り返しお電話させていただいてもいいですかぁ〜?」

「………………ガチャ」

フッ

①やな。

電話を切ると、事務所の面々がポカーンとした顔でこちらを見ている。
事情を説明し、皆が笑い止むのを待ってから、Aホテルに電話。
「高橋さん」は確かにいるが、電話をかけて来た人とは別人で、勤務時間も性別も違った。

翌日、私はその著名人の事務所に、昨夜の電話の事を告げた。

「わかりました!心当たり有ります!」

つい先日も、なぜか乗っている新幹線の時間と車両を把握していて、降りた瞬間待っていたそうだ。

ホテルでお客様のお荷物を代わりに次のホテルに発送する事自体はそうそう珍しい事ではありません。

ただ、伝票書いたり発送先のホテルへの連絡をしたり、全部ホテル側がやるのは、少なくともうちでは8割が外国人のお客様の場合ですね。
伝票書けませんから。

個人情報の責任は大きいですから、次のホテルへの連絡は、お客様自身でしていただいてます。
その上でうちから「今発送しました。何日の何時頃届きますのでよろしくお願い致します」と電話するんです。

ストーカーくん、爪が…いや、詰めが甘かったな。