2021年10月1日は国際コーヒーの日です。2015年に始まったこの記念日は、コーヒー豆の価格が安すぎることがコーヒー農家を苦しめている現状を周知し、フェアトレードを促進させる目的で制定されたものですが、2021年は例年と異なりコーヒー豆が高値で取引されています。そこで、コーヒー市場に詳しい専門家が、コーヒー豆の価格が上がった原因と今後の見通しについて解説しました。
エスプレッソやカプチーノに代表されるイタリアコーヒーの歴史を探究するプロジェクト「The Cappuccino Conquests」の指揮を執った経験を持つイギリス・ハートフォードシャー大学のジョナサン・モーリス教授によると、2021年のコーヒー豆の価格は過去1年間で2倍に上昇しているとのこと。具体的には、2020年9月の1ポンド(約454g)当たり1.07ドル(約120円)から2021年9月には1.95ドル(約220円)へと高騰しており、2021年7月には2.08ドル(約230円)の高値をつける一幕も見られました。
コーヒー豆の価格は品種を問わず全面的に高くなっており、高級コーヒー豆の1つであるアラビカ種の豆の価格はこの1年間で80%以上、安価なロブスタ種の豆の価格も30%以上上昇しているとのこと。このことからモーリス教授は「私たちは、今後数年間にわたってコーヒー豆の価格が上昇する大きな流れの始まりを目にしているのかもしれません」と述べています。
コーヒー豆が高騰した最大の理由は、世界のコーヒー収穫量の約35%を占める世界最大のコーヒー生産国であるブラジルの環境問題です。コーヒー豆の生産量は年によって異なりますが、通常は生産者による在庫管理やコーヒー先物市場による価格調整により平準化されるため、価格が大きく変動することはありません。
しかし、ブラジルは2021年に「100年ぶり」と言われる水不足に見舞われ、これが原因でコーヒー豆のもとであるコーヒーの実の収穫量が減少しました。さらに、寒波による霜害(そうがい)の影響でコーヒーの木や実がダメージを受けていることから、ブラジル当局は2021年のアラビカ種の収穫量は過去12年間で最も少なくなるだろうと予測しています。
コーヒーの木は成熟するのに5年もかかるため、コーヒー産業が受けた被害の全容が明らかになるには時間がかかります。一部の専門家は、「霜害の影響を受けるブラジルのコーヒー農園は最大で全体の3分の2に及ぶ」と指摘しており、コーヒー豆の価格は1ポンド当たり4ドル(約440円)に達するとの見方もあるそうです。
実は、コーヒーの価格が乱高下するのは、近年に始まったことではありません。1930年代には、世界恐慌による不況とコーヒー豆の豊作が重なった結果コーヒー豆が大量に余ってしまい、コーヒー豆を海に捨てたり機関車の燃料にしたりする生産者が続出しました。一方で、1975年にコーヒーの病気が大流行し生産量が60%も下落した結果、コーヒーの価格は1977年までに3倍に膨れ上がったことがあります。
こうした経験を元に、コーヒー産業は病気に強いロブスタ種の作付けを拡大し、コーヒー生産量の安定化を目指しています。ロブスタ種は値段も安いため、ブレンドコーヒーなどに使うロブスタ種の割合を増やせば、コーヒーの価格を抑えることができます。しかし、ロブスタ種の主な生産地であるベトナムでは新型コロナウイルス感染症対策の経済封鎖が続いているため、すぐには生産量を増やすことができません。
こうした情勢のあおりを受けて、当面の間コーヒー豆の仲介業者は在庫の確保に奔走し、コーヒー飲料メーカーは原材料の高騰をどうやって吸収するかに頭をひねり、一般家庭の消費者はコーヒー価格の上昇に直面することになると、モーリス教授は結論づけました。
https://gigazine.net/news/20211001-coffee-bean-prices-doubled/