「子牛がありえない低価格で取り引きされ、買い取り手のない子牛もいる。廃業を考えている酪農家も多い」
取材のきっかけは、北海道で開かれたあるイベントで聞いた料理人のことばでした。子牛の価格が下落しているとは、いったいどういうことなのか?
取材を進めて見えてきたのは、北海道の酪農の現場が直面する厳しい現実でした。
去年は14万円も…
まず訪れたのは北海道南部にある酪農が盛んな八雲町です。
地区のJAを取材したところ、「この苦しい状況を多くの人に知ってほしい」と、町内の酪農家を紹介してくれました。
取材に応じてくれたのは片山伸雄さん。
90頭ほどの牛を飼育し、生乳を生産しています。あまり知られていませんが、酪農家は「肉牛として育てられる子牛」も生産しています。
乳牛のホルスタインどうしをかけあわせて生まれた子牛の「メス」は、乳牛として育てられますが、子牛の「オス」や、乳牛や肉用の牛をかけ合わせて生まれた「交雑種」の子牛は、肉用として畜産農家などに販売され、育てられるのです。こうした子牛は、酪農家にとっては大切な収入源です。
しかし、この価格が大幅に下落している、というのです。<中略>
いったいなぜなのか?
買い取る側の畜産農家に話を聞いてみました。
畜産農家
「牛肉の値段は変わらない。それなのに牛の生産コストだけがどんどん上がっちゃうということになると、畜産農家のもうけが無くなる。うちらも安く買ったからといって、たくさんもうけてるわけじゃない」
牛のエサである飼料の大半は、輸入に頼っています。しかし、ロシアのウクライナへの軍事侵攻などの影響で、取引価格が大幅に上昇。話を聞いた畜産農家でも、月の負担が数十万円も増えているとのことでした。<中略>
去年10月、畜産会社の担当が、子牛を買い取るために片山さんの牧場を訪れました。
子牛の状態を詳細にチェックし、担当者が提示した金額は「1000円」。手塩にかけて育てた子牛がこの価格。<中略>
北海道の酪農家を取り巻く環境が厳しさを増す中、現場では対応を迫られています。
十勝地方の酪農ファーム経営者、小椋幸男社長です。小椋社長は北海道上士幌町で乳牛およそ3900頭を飼育する国内最大級のギガファームを経営しています。
飼料代の高騰が経営を直撃。年間のエサ代は30億円に達し、経営コストの8割を占めるまでに膨れ上がっています。規模拡大を追求する中で北海道の酪農家は、規模の拡大が求められてきた背景があります。
2014年にバター不足が問題になると、国は地域ぐるみで畜産関連産業を強化する事業を推進してきました。小椋社長も2019年、およそ40億円を投資して、最新鋭のロボット牛舎を新設。牛の数もさらに1000頭増やしました。
しかし、近年は新型コロナウイルスの感染拡大によって生乳需要が低迷。1か月におよそ4億円ある生乳販売のほとんどは、高騰するエサ代に消えるという状況に陥っていました。
生き残りかけ“アウトに出す”
去年10月、小椋社長は生き残りをかけ、苦渋の決断を下します。
この日、小椋社長は、オンライン会議で交渉に臨んでいました。生乳の集荷は指定団体(北海道ではホクレン)を通じた「一元集荷体制」が一般的です。
しかし、小椋社長は生乳をより高く売るため、去年4月から群馬県の卸売り会社を通じて販売し始めました。この取引量をさらに拡大できないかと考えたのです。
指定団体以外に出荷することは“アウト(アウトサイダー)に出す”と呼ばれ、業界の枠組みから外れる行為だとみなされます。
しかし、小椋社長はみずから販路を拡大しなければ、ことし以降の経営が本格的に危うくなってくると感じていました。
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https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230118/k10013951921000.html
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