世界最大の中国自動車市場で、電気自動車(EV)など新エネルギー車を巡り過酷な値下げ合戦が繰り広げられている。景気悪化で消費者の価格への目は厳しくなるばかりだが、採算を度外視した売り方には、日本メーカーはもちろん、「自動車王国」を目指すよう中国政府から号令を受ける国内メーカーからも警鐘を鳴らす声が漏れ始めている。(北京・石井宏樹、写真も)
◆ポルシェ以上のスピードで650万円のコスパ
4年ぶりの開催となった「北京モーターショー」。開幕初日の4月25日、最大の注目を集めたのは3月末にEV「SU7」を発売した家電大手「小米科技」(シャオミ)創業者の雷軍(らいぐん)氏だ。28日間で7万5000台以上を売り上げた、と明らかにすると多くの観客がどよめいた。
雷氏が続けて強調したのはコストパフォーマンスの高さだ。EVがサーキットを疾走する動画を流して運動性能をアピール。29万9900元(約650万円)のモデルが、ポルシェやテスラのタイムを上回ったとし、「50万元以下では最速だ」と誇った。
シャオミはスポーティーな外観と高性能、低価格を打ち出して爆発的な人気を誇る。中国メディアによると、一部で1台あたり6800元(約15万円)の赤字との試算が流れた。雷氏自身も発売後、「現時点では損して車を売っている。これは誠意の示し方だ」と述べ、損失覚悟でシェア拡大に突き進む。SU7の発売後、テスラなどが相次いで値下げを強いられた。
◆国を挙げての新エネ車振興に外国メーカーも翻弄
会場ではあちこちに低価格や大幅割引の宣伝文句が並ぶ。中国の新興EVブランド「NETA」は最大3万元(約65万円)の割引を大画面でアピール。下取りやローン金利優遇に加え、「北京ナンバー割」も打ち出して来場者の購入意欲をあおる。販売員は「積極的な価格戦略で北京の顧客を少しでも取り込みたい」と意気込む。
外資も例外ではなく、韓国・起亜自動車はEVなどを会場で購入した客を対象に、5万5000~3万元を割り引いた。
中国政府も景気刺激のため、自動車の買い替え策を打ち出す。条件を満たした新エネ車の補助金は1万元(約20万円)に対し、ガソリン車は7000元(約15万円)。ハイブリッド車(HV)回帰が進むグローバル市場とは対照的に、国を挙げて新エネ車振興に突き進み、過剰な生産能力が貿易摩擦に発展する可能性も懸念されている。
◆長期的には顧客の利にならない悪性競争
ホンダの五十嵐雅行中国本部長は「尋常ではない値引きだ。コストを積み上げて値付けできない」と現状に危機感を募らせる。マツダの毛籠勝弘社長も「中期的には中国の会社が持続可能なところに価格や価値が収れんするはずだ。短期的には一喜一憂しない」との見方を示した。
中国でも過当競争への不安の声が広がる。新興EVメーカー「NIO」の幹部は会期中「長期の悪性な価格競争は良好な市場環境に影響する。顧客の長期的な利益の助けにならない」と批判的な見解を示した。中国自動車工学学会の付于武(ふうぶ)名誉理事長も中国メディアの取材に「過当競争の自動車産業は、健全で持続可能な発展について深く考えるべきだ」と訴えた。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/324703
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