■足を組んでいたら長老に…
田舎暮らしを始めて3年が経過したが、また別のところに移り住みたいと思ったことが何度かある。自治会の集まりに出席していたところ、足を組んでいた筆者に向かって、いきなり前に座っていた「長老」と呼ばれる男性から「目上の者に向かって足の裏を見せるとはなんだ」と大声で怒鳴られたことがあった。他人の前で足を組むのはなんら無作法とも思っていなかったが、その長老の琴線に触れてしまった。
参加者から後日、「たまたま座った場所が悪かった。気にするな」となだめられたが、50歳を超えて公の場で怒鳴られるのは想定外。「都会風」を吹かしていたかもしれない筆者に対する示威行動と判断している。
男女の役割分担が明確に分かれているのが田舎だ。移住先を探して全国各地を回る中では、移住者の先輩から「女性は発言権すらない」と聞き、前時代的な価値観が今も残っているのだと思った。
ただ、実際に田舎に住んでみると、男尊女卑というより、田舎には田舎の論理や考え方があるように見える。野良仕事や草刈り、薪割りといった体力仕事や、インフラ整備や土木工事などをめぐる行政との交渉、山の管理といった仕事は男性が優位性を発揮する。
こうした事柄は、男性に任せておけばいいという考え方が田舎には存在するようだ。女性も男性の存在には大きく助けられていると考え、それに乗っかっているのだろう。結果的に自治会の会合でも、男性が主導して物事を決めている。
■草刈りや自治会活動の重い責務
現在の場所に移住してきたのは、集落に知人の移住者がいたためだった。田舎に居を移すに当たって、田舎という未知に対する不安がぬぐえなかった筆者にとって、「年に2回の行事がある程度で、田舎暮らしで求められる田舎的な義務も少なく、集落は助け合いをモットーとしており、暮らしやすい」と勧められたことは大きな安心材料になった。
だが、実際には、もう少し田舎暮らしで求められる負担は大きい。集落の自治会加入に当たって、管理する土地で雑草を放置してはいけないという決まりがあり、5月から10月にかけ、最低でも3回程度は私有地の草刈りが必要になる。
さらに、地区の草刈りが年に2回ある。エンジン式の草刈り機は、1時間もやっていると手が痺れてきて感覚が麻痺し、この作業は苦手であるが、田舎暮らしを続ける限りは避けては通れない。
そのほかにも、自治会の会合が4回、「組」と呼ばれる集落の班ごとの務めもある。現在、筆者はその班長を担っており、毎月2回配られる広報誌を組に所属する7軒に個別配布しなければならない。
回覧板に広報誌をまとめて入れて、「各自お取りください」という方式に変えたいところだが、「新参者の都会出身者」が長年の慣例を変えれば、効率重視で「都会風」を吹かしていると言われかねないので、タイミングを見計らっている。なによりも、長老ら集落の権力者への根回しが必要なことは言うまでもないだろう。この辺りは、日本の多くの会社組織と共通する。
前出の長老に言わせれば、班長は組に住む人たちの安全や健康管理の役割も担っているという。広報誌の個別配布も、近隣住民たちに異常がないかを知ることができる貴重な機会というわけだ。
■会合や葬儀への出席は半ば義務
そのほか、集会場の掃除が定期的に回ってくるほか、消防団への参加を頼まれたり、班長として自治会の年4回の会合とは別に、事前会合のような集まりにも参加したりしなければならない。
また、集落で不幸があった際には、葬儀への出席も義務とされている。さらに、機会があるごとに、自治会の役を将来的には引き受けてくれと頼まれることも、気軽な田舎暮らしがしたいと考えている筆者にとっては気が重い。
都会で自治会に加入していなかった筆者も引っ越してきた当初は、自治会に加入せず人付き合いもほどほどに気楽に暮らしたいと考えていたが、田舎で自治会に入らないのは「村八分」になるようなものであると知った。
聞いた話だが、自治会に加入していない移住者に茶刈りを頼まれて快く引き受けていた人が、「お前はそんなに金が欲しいのか」と知人から言われたという。人間関係でつながり合う田舎では、口コミが非常に重要な役割を果たしている。自治会に入らない「不届き者」と仲良くするとは何事かと、プレッシャーがかけられてしまうこともある。
口コミは、非常に怖い面もある。筆者が引っ越してきた当初、近隣の各戸にお菓子を手土産に挨拶に回ったのだが、1軒だけたまたま訪れた際に不在で挨拶が遅れたが家があった。
全文はこちら
https://toyokeizai.net/articles/-/653661
続きを読む