<韓国チームの開発したLK-99について、科学界は「常温常圧超伝導体は幻だった」と結論づけている。そんななか、67年前に予言され、理論上だけの存在だった「パインズの悪魔」を京大教授らが観測。ノーベル賞級の研究成果が発表された>
韓国チームが世界初の常温常圧超伝導体(超伝導物質)と主張する「LK-99」は、7月末に発表されて以来、「世紀の大発見か?」と世界中を巻き込む大論争になりました。
「本当だったらノーベル賞級」「エネルギー問題の解決の糸口になる」とされ、超伝導体関連の株式市場まで動きましたが、世界で最も権威がある科学学術誌の一つである「Nature」は16日、オンライン版で「韓国の研究チームが開発したLK-99は常温常圧超伝導体ではない」と報じました。<中略>
■京大教授らが67年前に予言された「パインズの悪魔」を観測
今回の騒動は、超伝導体の有用性と「ノーベル賞級の研究」の信頼性について深く考えさせられる機会になりました。超伝導体関連の研究は、過去にデータ捏造や追試が成功しなかったケースが少なくないため、端(はな)から成果を疑ってかかられる傾向がありますが、残念ながら今回の研究も疑念を振り払うことはできなかったようです。
ところが、ここ数週間のLK-99騒動の最中に、日本では超伝導体を用いた独自のノーベル賞級の研究成果が発表されました。追試にも成功しています。
京都大の前野悦輝・高等研究院教授、イリノイ大アーバナ・シャンペーン校のピーター・アバモンテ教授らの国際研究チームは、超伝導体を用いて67年前に予言された電子の奇妙な振る舞いの観測に成功しました。研究成果は9日付の「Nature」に掲載されました。
「パインズの悪魔」と名付けられているこの現象では、電子は質量や電荷を持たなくなり、光との相互作用もなくすといいます。京大チームはどうやって観測したのでしょうか。詳細を見ていきましょう。
私たちの身の回りのものは、すべてが原子で構成されています。原子の中身は①電気的にプラスで大きさが大きい陽子、②電気的に中性で大きさが大きい中性子、③電気的にマイナスで大きさが小さい電子に分けられます。陽子や中性子の質量は、電子の約1840倍です。
電子は陽子や中性子から離れたところを飛び回っており、電子の個数によって物質の性質が変わります。金属では、電子をたくさんの原子で共有することで自由に動ける状態になっています。つまり、電気が流れることができます。
通常、電子は質量と電荷(電気の量)を持っています。ところが1956 年にアメリカの理論物理学者のデイビッド・パインズ博士は、固体中で電子が奇妙な振る舞いをする可能性を予言しました。電子が結合して、質量がなく、電気的に中性で、光と相互作用しない複合粒子を形成できると考えたパインズ博士は、この新しい粒子を「特異な電子の運動(DEM:distinct electron motion)」と粒子を表す接尾辞「on」から「DEM-on(悪魔)」と名付けました。
けれど、これまではパインズ博士の提唱した「悪魔粒子」が実際に観測されたことはありませんでした。というのも、悪魔粒子はまだ分からない部分の多い超伝導の性質の解明や合金の生成条件を説明するのに役立つと考えられていましたが、光を使った装置で検出できず、電荷や質量も持たないために、観測のしようがなかったためです。
■思わぬ形で重大発見
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https://www.newsweekjapan.jp/akane/2023/08/post-63_1.php
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