「イーロン・マスクCEOに8兆円の報酬は巨額すぎる」と、米テスラの株主が訴えている。係争の行方は横に置くとして、電気自動車(EV)市場は厳しい価格競争によりレッドオーシャンと化した。中国勢が低い生産コストを武器とする一方で、テスラはどんな壁にぶつかっているのか。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
● 利益の大幅減でテスラ株が下落
世界の電気自動車(EV)市場は今、厳しい価格競争により新しいステージに突入している。その証左として、米テスラの業績が伸び悩んでいることがある。
1月25日、ニューヨーク株式市場でテスラの株価は前日比12.1%下落した。前日に発表があった、同社の2023年10~12月期決算の内容が嫌気されたからだ。営業利益は、前年同期比47%減の20億6400万ドル(1ドル=148円換算で約3050億円)だった。テスラの先行きに懸念を抱く投資家は増えたようだ。
背景には、比亜迪(BYD)など中国のEVメーカーの台頭がある。BYDはEVの販売価格を積極的に引き下げ、急速に世界シェアを高めている。値下げ競争の激化により、テスラの収益性は悪化している。
今後、テスラを取り巻く事業環境の厳しさは増すことが予想される。中国政府の産業補助政策の追い風もあり、BYDや車載用バッテリー世界大手の寧徳時代新能源科技(CATL)の価格競争力が脅威となる。
一方、テスラはコストの高い米欧で生産能力を強化する必要性に迫られている。車載用バッテリーの製造技術の確立も急務だ。今後さらに業績が悪化すると、テスラは、世界が注目する“マグニフィセント・セブン”(アマゾン・ドットコム、アップル、メタ・プラットフォームズ、アルファベット、マイクロソフト、エヌビディア、テスラの米7社)から脱落する懸念さえある。
● 過酷な価格競争に巻き込まれるテスラ
23年10~12月期、テスラの「モデル3」や「モデルY」などの生産台数は前年同期比13%増の49万4989台、販売台数は同20%増の48万4507台だった。一方、売上高は前年同期比3%増の251億6700万ドル(約3兆7000億円)で、23年7~9月期の売上高が同9%増だったのに比べると鈍化した。
世界的なEVシフトを背景に、生産と販売台数は伸びたものの、価格下落の影響により売り上げの増加ペースはそれを下回った。
価格下落の背景には、BYDや上海蔚来汽車(NIO)など中国のEVメーカーの値下げ攻勢がある。中国では、不動産バブル崩壊による個人消費の低迷、EV販売補助金の終了(※)などに対応するため、多くの自動車メーカーがEV販売価格を引き下げている。※23年以降、一部の地方政府は独自の販売奨励策を実施
EVは、製造コスト全体の3割程度を車載用バッテリーが占める。BYDやCATLのコスト構造が低いのは、中国政府が工場用地を供与し、産業補助金などで生産能力の増強を支えてきたからだ。中国内では販売補助が終わってEVスタートアップ企業の多くが倒産したこともあり、BYDなど主要メーカーの値下げ余地は大きい。
BYDが値下げ攻勢を強める一方で、テスラは一部機能をアップグレードして値上げ(競合モデルとの差別化)を行い、対抗した時期もあった。しかし、消費者の支持を増やすことは難しく、結局テスラは値下げを余儀なくされた。
こうして、世界的にEVの値下げ競争は激化するばかりだ。最近、BYDはドイツのEV販売補助金の終了に対応するため、値下げを発表した。これに伴いテスラも、ドイツなどで販売するスポーツタイプ多目的車(SUV)の「モデルY」の価格を最大9%引き下げている(1月下旬時点)。
● シェアの低下と新型バッテリー製造の難航
23年10~12月期、値下げ攻勢を強めたBYDは、テスラを抜いて世界シェアトップのEVメーカーに躍り出た。専門家が、「カット・スロート・コンペティション(過酷すぎる競争)が起きている」と危惧するほど、EVの値下げ競争が止まらない。
一方、原価の引き下げは一朝一夕にはいかない。値下げに拍車がかかると、どうしても企業の収益性は低下する。
また、米国ではGMやフォード、韓国の現代自動車などもEV投入を強化している。このことからも23年10~12月期、米国のEV市場でテスラのシェアは前年同期の58%から51%に低下した。EV市場はもはやブルーオーシャンではなく、レッドオーシャンに変化したのだ。
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https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/49972fd09ba3c0c2d1514aef6a3b9686c99ad0a9
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