そんな中、早くもバンドンから先、スラバヤまでの高速鉄道延伸が確実な情勢になってきた。高速鉄道をジャカルタ―バンドン間、わずか142kmの区間にとどめておくことは、あまりにももったいない。今後のさらなる乗客の獲得、収益化のためにも延伸は待ったなしである。
すでに中国政府はインドネシア側からの要請を受け、スラバヤ延伸に向けた実現可能性調査の実施に合意した。同時にジョコウィ大統領は、高速鉄道の国産化を目指している。任期中の実現はかなわないものの、2023年10月下旬には国営車両製造会社(INKA)と中国中車(CRRC)青島四方との間で、高速鉄道車両開発における技術協力の覚書を締結した。国威の高揚、ナショナリズムに訴えて支持率を取りつけるというのもジョコウィ大統領の政治手法であるが、高速鉄道開業ブームに乗じてスラバヤ延伸への道筋をつけ、次期政権に繋げたい考えだ。
高速鉄道の開業に伴い、バンドン市街のフセイン・サストラネガラ空港は軍用空港に戻され、民間航空機は東に70km近くも離れた西ジャワ(クルタジャティ)国際空港に全便が移管された。クルタジャティまでの高速鉄道延伸は、当初から計画されており、クルタジャティまたはチルボンまではすぐにでも着工されるものと予想される。そして、さらに東、ジョグジャカルタ、ソロへと延びれば、所要時間、価格面から高速鉄道が圧倒的シェアを占め、さらなる乗客の獲得に成功するはずだ。
ただ、中国経済の停滞もあり、莫大なコストがかかると予想されるスラバヤ延伸への資金調達には、中国もまだ前向きではない。とくにインドネシア側は従来通りの2~3%ほどの金利を要求しているため、議論は膠着状態だ。
屋根まで人があふれ、線路内に市場が立つほどだったインドネシアの鉄道が、この10年で驚くべき発展を遂げ、地下鉄(MRT)、そして高速鉄道まで開業させたことは世界から注目を集めている。工期通りに開業したMRTはもちろん、4年遅れの高速鉄道も世界的に見れば誤差の範囲内であり、鉄道に投資するに値する国として認識されつつある。とくに2022年にバリ島で開催されたG20サミットで潮流が変わった。いくつかの国際的な金融機関が高速鉄道に興味を示していると言われており、スラバヤ延伸では中国を含む複数国、複数機関の協調融資になる可能性もある。
■日本は高速鉄道成功に乗れず
しかし、すでに中国規格で建設されていることから中国式高速鉄道であることは変わらず、タイド借款を基本とする日本の出る幕はほぼないといえる。これまでの経緯からして、少なくとも政府系の機関はこの案件に手を触れることはないだろう。
ジャカルタ―バンドン高速鉄道計画にまだ中国の影がなかった2010年代初頭、従来の円借款供与規模を大きく超える額(当時の額で約7000億円)にインドネシア側は大きな不信感を抱いていており、日本が新幹線を押し売りしていると批判に晒された。そのまま政府の対外債務になることに加え、日本は技術の移転、つまり将来的な国産化を許さなかったからである。
当時のユドヨノ政権下のユスフ・カラ副大統領は道路建設関連の会社を保有しており、反鉄道派の筆頭とも言える存在で、高速鉄道に対しても一貫して不要を唱えていた。第1期ジョコウィ政権でも同氏は副大統領の座につき、影響力を振るったことは日本にとって不運ではあった。ただ、そのような状況の中で日本政府は上から目線に徹し、インドネシアが求めるPPPスキームでの建設、そして将来的な国産化に応えず、インドネシアのプライドを傷つけてしまったことは、結果的に大きな禍根を残すことになったといえる。
高木 聡 :アジアン鉄道ライター
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