今年の元日に起きた能登半島地震の発生時に強い口調で非常事態を伝え続け、東日本大震災の教訓を生かした緊急報道で評価を得たNHK。ところがこの1カ月で課題が次々に露呈した。元NHK解説委員でメディアアナリストの鈴木祐司氏が、視聴率、視聴者の声、報道OBの意見から評価していく。
まず個人視聴率。特定層の実態まで調べるスイッチメディアによれば、地震発生から翌日の羽田空港での衝突事故が重なった当初の数字はかなり高かった。ところが1週間もすると昨年1月の平均値を下回るようになり、通常通りの枠で放送した1月の平均値は前年比で1割下がった。
問題は視聴者層のばらつきが大きい点。高齢者の数字は比較的安定していたが、女性の64歳以下と若年男性は大きく数字を落とした。原因は以下のSNSの声に象徴されるだろう。
「能登地震のニュースばっかり。同じことを何度も何度も」「被害者の大変さを押し付けるニュースにうんざり」「〝遺族をケアするポイント〟はニュース番組で不要」
NHKの報道OBの見方も厳しい。
「朝・夕・夜の各番組のキャスターが現場に行き、民放のワイドショーのように自分の番組に向けたリポートを繰り返すのが目立つ。結果、どの番組もリポーターが変わるだけで似た話を繰り返し、情報性よりも手軽なテーマばかりとなった」
特定層の視聴率は特に厳しくなった。企業の管理職、公務員、男性35~49歳のTVニュースをよく見る層は、前年比で1・5割ほど減った。「見る価値なし」と評価した人が増えたのである。
これは「震災から1カ月」を特集した2月1日にも表れた。
「全国向けニュースである以上、防災上の問題点や教訓が大切。この日は石川県の地域防災計画が取り上げられたが、27年前に作られたままで、見直しに着手したのは昨年8月だったというもの。これがトップ項目に入らず、政治や海外ニュースを報じた後のいわば地震の第2部ニュースだった。優先順位が明らかにおかしい」(NHK報道OB)
1995年の阪神淡路大震災以降、報道は誰に向け何を伝えるのかを問う声が大きくなっている。〝被災者に寄り添ってます〟感ばかりでは、被災地以外の人にソッポを向かれてしまう。報道は時々刻々の変化に併せて進化しなければならない。〝内向き・やってます〟感がにじむ内容では、視聴者が逃げるのは当然だ。ニュースは走りながら考える能力が問われる仕事なのである。
https://www.sankei.com/article/20240211-KURK37STCVH4HA466Q2ZCWHSMA/?outputType=theme_weekly-fuji



