1:名無しさん




 最初に読者の皆さんに誤解がないように申し上げますと、大多数の医療者は、性的好奇心をもって患者さんを診察しているのではありません。

 医師、看護師、放射線技師、理学療法士など、たくさんの医療従事者が患者さんの身体に関与します。患者さんの体に触ったり、観察したり、場合によっては針を刺したり、メスを入れたりします。医学において患者さんの「身体」を避けて通ることは不可能で、患者さんの身体に一切関わることなく医療行為を行うことは(まあ、ときにはそういうことが可能なケースもあるのですが)、かなり難しいと言えましょう。

 ぼくが米ニューヨークで修業していたとき、ある女性の患者さんの身体に触れることなく診療することを、本人とその夫から要求されました。特定の宗教に属しており、患者さんは頭からすっぽりと衣服をまとっていて、その目しか見ることができません。ゆったりした衣服のせいで体形すら判然としません。

 「これはまた、恐ろしく難しいことを要求してくるなあ」と困ってしまいましたが、そこは世界一多様で、かつ世界一あれやこれやの要求が多いと言われるニューヨーク市の患者さんです。「分かりました。なんとかしましょう」と、ぼくは知識や技術を駆使して、なんとかその患者さんのケアを完遂しました。

https://www.yomiuri.co.jp/yomidr/article/20240527-OYTET50010/