1:名無しさん




甲州印伝とは、山梨県を中心に発展した、鹿革を原材料とする伝統工芸品です。鹿の革をなめして加工し、そこに漆を用いて模様を施す技法が、江戸時代に編み出されました。鹿革特有の軽く柔らかな風合いに、漆の持つ上品な光沢が加わることで評判となり、以後、さまざまな用具に用いられるようになりました。

17世紀頃、南蛮貿易が盛んだった時代、インド産の装飾革が東インド会社を通じて日本にもたらされました。この装飾革は「応帝亜(インデア)革」と呼ばれ、幕府に献上された際に、インドから伝来したという意味を込めて「印度伝来」と称され、これが縮まって「印伝」と呼ばれるようになったと伝えられています。こうして「印伝」という名は広く知られるようになりました。

甲州印伝の美しさと独自性は、三つの伝統技法によって支えられています。一つ目は「燻(ふすべ)」と呼ばれる技法で、鹿革を煙で燻し、黄褐色に染め上げるものです。二つ目は「漆置き」で、型紙を使いながら漆を乗せることで模様を表現します。この工程によって、印伝ならではの立体的で豊かな表情が生まれます。そして三つ目は「更紗(さらさ)」と呼ばれる技法で、型紙を用いて顔料で模様を付けるものです。模様がインドの伝統的な布「更紗」に似ていたことから、この名が付けられたといわれています。

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